エージェンティックAIは銀行業務変革にどう貢献するか？ nCinoが発表した5つのエージェント

銀行業務の変革、成功の敵は現状維持

　日本の金融機関は、人口減少による少子高齢化の進行、地域経済の縮小と、難しい経営環境下でありながらも、収益成長を求められている。数十年にわたるゼロ金利政策の影響もある。デジタル化の遅れも足枷だ。特に、合併を経験した銀行の場合、統合後の標準化に取り組むと同時に、長年運用してきたレガシーシステムのモダナイゼーションに取り組まなくてはならない。ネガティブ材料だからこそ、変革は避けて通れない。基調講演に登壇したショーン・デズモンド氏（President and Chief Executive Officer nCino, Inc.）は、「進歩の敵は、一つの単純なフレーズ『これまでずっとそうしてきた』にあると思う」と語った。

　そして、2011年の創業時に掲げたミッション「革新、信頼とスピードで銀行業界を変革する」を紹介し、クラウドバンキングの世界的リーダーになることを目指し、現在に至るまで銀行業務の変革支援に取り組んできたことを強調した。その間、重視したことは大きく3つある。まず、イノベーションへの投資である。今日のテクノロジーのスピードは凄まじい。だとしても、最新テクノロジーへの投資を続けなければ、成功するソフトウェア企業にはなれない。次に、レピュテーション（評判）を高めることだ。米国本社では、最初の3年間で顧客を12行、36行、72行と増やしてきた。その過程で形成されたのが、顧客同士が知見を共有できるコミュニティである。その中で良い評判が醸成され、まだ導入していない銀行へと伝播して行った。同じことが日本でも可能だと信じているとデズモンド氏は述べた。最後がスピードである。nCinoの顧客が取り組む変革では、成果を早く獲得するために、スピードが非常に重要になる。以前のやり方を維持している限り、その成果をスケールさせることも難しい。

　変革で成果を得るには、チェンジマネジメントも重要だ。導入したら、すぐに結果が出る「魔法の杖」のようなテクノロジーは存在しない。とはいえ、SaaSベンダーとして、その本分である顧客が常に最新のテクノロジーを利用できるよう、プロダクトへの投資を続けてきた。デズモンド氏は、nCinoが毎年の収益の約20％を研究開発に投じていると述べた、その規模は年間1億ドル以上に相当する。現在の顧客は2,700超。導入顧客が増えれば、プロダクトへの投資も増え、ユーザーが享受できる価値も増える。好循環を作ることに注力してきた。

nCinoの競争優位性は独自に構築したデータ資産

　現在、nCinoでは、法人、中小企業、個人、住宅ローンなどの事業分野を問わず、顧客オンボーディング、口座開設、融資、ポートフォリオマネジメントの業務機能を提供している。「私たちはnCinoをポイントソリューションではなく、融資業務のプラットフォームと捉えている」とデズモンド氏は述べ、どこから導入してもソリューション間の連携が容易に取れ、成果をスケールしやすい強みを挙げた。

　そして、データと今後のAI活用に向けての環境を提供するのが、nCinoが独自に構築したデータ基盤である。このデータ基盤は、あらゆる銀行業務へのインテリジェンスの組み込みを支えており、成果を得る機会を提供するものになる。「nCinoでは、AIを問題解決のためのソリューションではなく、ビジネス成果獲得のためのものと捉えている。世界で最も規制の厳しい金融業界において求められる責任ある対応をしていく」と語った。そもそも、nCinoは既存のシステムを完全に置き換えるものではない。その分、組織内に散在するデータサイロの問題を解決しなくては、AIは実力を発揮できない。そこで、統合レイヤーを介したデータへの接続を提供することで、あらゆる活動でインテリジェンスを利用できるようにした。

　具体的にどんなインテリジェンスを利用できるのか。すでにどんなLLMを利用できるかは、差別化要素にならなくなっている。SaaSベンダーの多くは、ユーザーが自由に選べるよう複数のLLMを提供している。nCino独自の資産は顧客のデータである。前述の2,700超の金融機関は、nCinoとデータを共有することに同意している。そのため、nCinoの顧客は、世界的な銀行から、比較的中規模の銀行、小規模な地域密着型銀行に至るまで、信頼できるデータセットを利用したインテリジェンスにアクセスできる。

　また、デズモンド氏は、「私たちは銀行業務に精通しているだけではない。チームは銀行業務に情熱を注いでいる」と訴える。nCinoを導入する銀行は、自分たちの仕事のやり方を根本的に変えなくてはならない。その過程では、少なくない痛みを伴うことも予想される。nCinoは世界中で効果を実証してきたベストプラクティスを提供するが、既存のビジネスプロセスをnCinoに完全に当てはめる必要はないという。規制業界でビジネスをする以上、各国独自の法規制への対応は必須だ。そのため、必要に応じてローカライズする余地を残しているとした。