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OpenAIの最高戦略責任者と語る、日本が「世界で最も信頼されるAIインフラ国家」になるための条件

三菱UFJ銀行・村田製作所も登壇 金融・製造の立場からはAIインフラ構築の課題と制約にどう挑む?

 2025年12月9日、OpenAI Japanは都内で「AIインフラ」をテーマとしたトークセッションを開催した。OpenAI本社から最高戦略責任者(Chief Strategy Officer)のジェイソン・クォン氏が来日し、AIインフラ構築で繁栄を築くために国家・産業が乗り越えるべき課題と、日本がAIインフラ構築に持つポテンシャルについて語った。また、金融機関の立場から官民のAIインフラ構築を支える三菱UFJ銀行、さらにはAIインフラに欠かせない部品の製造を手掛ける村田製作所も登壇し、それぞれの立場から見えているAIインフラ構築の制約と、その解決のアプローチについて意見を交わした。

世界の中でも、日本は重要な「AIインフラ・サプライチェーン」を担う一国

──皆さん自己紹介をいただけますか。

ジェイソン・クォン氏(OpenAI):私はOpenAIに約4年半在籍しており、現在はCSO(最高戦略責任者)を務めています。ソフトウェアエンジニアとしてのキャリアだけでなく、OpenAIに参画する前は法律の実務に携わったこともあります。

藤木正行氏(三菱UFJ銀行):私は三菱UFJ銀行で、ソリューションプロダクツ部長を務めています。「ソリューションプロダクツ」というのはいわゆる一般的な貸出ではなく、たとえばプロジェクトファイナンスや不動産向けファイナンス、買収ファイナンスなどといった、ストラクチャーを組んだようなプロダクトを担う部署となります。

須知史行氏(村田製作所):私は村田製作所で、経営DX本部の本部長を務めております。部内には経営デザインや経営企画、それからITといった部署が入っています。弊社としては、AIは大きなビジネスドライバーの1つだと捉えているほか、「社内でどうAIを活用していくか」を考えるのは私の管轄にもなっております。

──具体的なAIインフラ構築の話に入る前に、まずはOpenAIから、世界のAIインフラストラクチャのトレンドをどう見ているのか教えてください。

クォン氏:まずは「AIインフラとは何か」から話すことで、今日の議論がしやすくなるでしょう。AIインフラと一言で表しても、それを構成する要素は非常に広範に及びます。

 まずは物理的な構成要素として、土地と電力がありますね。データセンターには土地が必要ですし、データセンターの稼働、すなわちGPUクラスターの動作には電力が必要です。そしてデータセンター自体もまた、物理的な構成要素です。その中にはAIのモデルやサービスのトレーニング、推論に必要となるGPUクラスターがともないます。

 そして物理的ではない構成要素として「データ」があります。大規模なモデルをトレーニングするためには大量の公開されているデータが必要であり、世界中の言語やナレッジを学習するための大規模なデータセットが欠かせません。

 さらに最後の構成要素を、私は「エコシステム」と呼んでいます。これは、AIスタックとそれを取り巻くアプリケーション開発者、人材、その他資本に関わる要素を指します。AIインフラの構築を成功させるためには、これらの要素が包括的に連携する必要があります。(データセンターやデータだけでなく)その基盤となる数多くのテクノロジーや、それらを機能させるための様々なアクターが連携しなければなりません。

Chief Strategy Officer(CSO), OpenAI ジェイソン・クォン(Jason Kwon)氏
Chief Strategy Officer(CSO), OpenAI
ジェイソン・クォン(Jason Kwon)氏

──他の国々ではどのような見方がなされているのでしょうか。

クォン氏:いくつか見てみましょう。今申し上げた要素をいかに連携させるか、これには国家的なアプローチが必要ですが、同時に、各国でそれを実際に機能させるために必要となる相互依存性という要素があります。

 まずは米国ですが、土地と電力はありますよね。しかし、インフラを構築するためのGPUクラスターを築くためには、チップやメモリを海外メーカーから輸入しなければなりません。そしてNVIDIAのような企業が、それらをGPUクラスターへと変換します。エコシステムの面では、大規模なアプリケーションエコシステムはあります。研究開発の人材も米国内にいます。しかし、実際に構築を進めていくとなると米国への資本流入が欠かせません。

 次にヨーロッパですが、概ねすべての要素をそろえる力はあるものの、特殊な事情があります。まず電力は、国や地域によって価格にバラつきがありますね。また、土地の制約に直面することもあります。そしてチップを輸入しなければならない点は米国と同じですが、基盤モデルのトレーナーやエコシステム、資本、人材などのリソースといった点では、米国ほど豊かではありません。これがヨーロッパの課題であり、改善に向けて注力している点だと思います。

 最後に日本に目を向けてみましょう。日本はすでに非常に多くの要素を持ち合わせています。まず、産業基盤が非常によく発展しています。物理的なAIインフラの構築は大丈夫です。そして、先進的なGPUを供給できるような国々との良好な関係も築いています。ですから、AIインフラ関連の輸出入の分野では特に問題はないでしょう。

 土地と電力は、政府や国家戦略の視点から、AIスタックの構築を支援するためにどうリソースを調整するか考えなければなりません。特にAIインフラに十分な電力をどう確保するかは、恐らく考慮すべき国家政策上の事項がたくさんあるでしょう。ただし日本には、アプリケーションエコシステムを開発するためのポテンシャルがありますし、世界的な資本という点では最大プレイヤーの一角です。

 そして、先ほどインフラの構成要素の話をした時に少し省略してしまいましたが、AIインフラのハードウェア構成要素はチップだけではありませんよね。GPUがコンピューターシステムの一部として機能するためには、ケーブルやラック、その他多くの部品が必要です。これらのサプライチェーン内には物凄い数の企業がありますが、その多くの企業が日本にあります。ですから日本は、AIインフラのサプライチェーンにおける重要な一国なのです。

次のページ
資金を拠出する金融機関から見た、日本のAIインフラに感じる課題

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名須川 楓太(編集部)(ナスカワ フウタ)

2021年より事業変革に携わる方のためのメディア Biz/Zine(ビズジン)で取材・編集に携わった後、2024年にEnterpriseZine編集部に加入。サイバーセキュリティとAIのテクノロジー分野を中心に、それらに関する国内外の最新技術やルールメイキング動向を担当。そのほか、テクノロジーを活用...

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