サービス提供の2つの形態
橋本氏は、PwCが提供するサービスの仕組みを説明した。企業のセキュリティポリシーに応じて、2つの形態から選択できる。
第1の形態は、PwCのセキュア環境を活用するものだ。経理・税務担当者からインプットを受け取り、PwCの生成AI環境でAI-OCRによる文字起こし、生成AIによるデータ抽出・経理判断を行い、アウトプットを返す。業務特化のプロンプトと過去事例をデータベース化して活用しており、「クライアントのデータが生成AIの学習等に使用されることはない」としている。
第2の形態は、企業内に生成AI環境を構築するものだ。機密性の高い情報を扱う企業向けの選択肢で、RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)を活用することで、企業内部で収集されたデータとPwCが開発したデータの両方を組み合わせ、機能を高められる。
さらに進んだサービスとして「生成AIマネージドサービス」も提供される。このサービスでは、全体を統括する「オーケストレーターエージェント」の下に、「仕訳作成エージェント」「印紙税判定エージェント」「税務Q&Aエージェント」など業務特化型エージェントが配置される。それぞれのエージェント内部にも複数のAIが組み込まれており、これらが連携して複雑な処理を自動化する仕組みだ。
第一法規との共同研究:著作権クリアランスと「三方よし」の実現
最後に紹介されたのは、法律情報の専門出版社である第一法規との共同研究だ。税務特化型AIボットのプロトタイプを構築し、税理士による評価で90%超の精度を実現した。
この成果の背景には、複数データベースの並列検索ロジックや、税理士の知見を組み込んだ回答生成専用AIエージェントの構築がある。同社の法人税法・消費税法関連コンテンツ(「コンメンタール法人税法」「法人税通達逐条解説」など)を搭載することで、回答可能な税目も拡張された。
この取り組みは長年にわたるもので、特に重視したのは著作権のクリアランスだ。正式な共同研究契約に基づくデータベース利用に加え、寄稿著者からの個別許諾を取得することで、著作権法を遵守しながらクローズドな専門情報を活用できる体制を構築した。
「生成AIを活用したサービスによって、著作権者・出版社・PwCの三者それぞれに収益が還元される新たなビジネスモデルが構築され、著作権者や出版社へ利益が分配できる仕組みができた」と橋本氏は説明する。
税務人材不足と税制の複雑化が進む中、PwCが提示したAI活用戦略は示唆に富む。「判断は人間が行う」「100点は取れないことを受け入れる」という現実的な原則を掲げ、効果が出やすい領域から成功体験を積み重ねるアプローチを推奨する。著作権クリアランスなど実務上のハードルにも正面から取り組んでおり、その姿勢はAI活用の現実解を示すものといえるだろう。
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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail : k...
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