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「木こりのジレンマ」をどう乗り越えるか?──社内DX大学1年目の失敗が教えてくれたこと

連載第3回

2年目の方針転換:任命制から公募制へ

 2年目、この企業は方針を180度転換した。

 任命制を撤廃し、公募制にした。やりたい人だけが参加する。強制はしない。この決断には勇気が必要だった。参加者が集まらなかったらどうするのか。1年目より縮小してしまうのではないか。

 そこで、重要な条件を設けた。上司の承認を必須としたのだ。

 本人が「参加したい」というだけでなく、上司が「この挑戦を支援する」と約束することを条件にした。応募時に上司との面談を実施し、「業務時間の一部を学習と実践に充てることを許可するか」「失敗を許容するか」を明確にした。

 結果は予想を裏切った。前向きに取り組む人が増えたのだ。

 公募に応じた人たちは、明らかに違っていた。「これを学びたい」「業務を改善したい」という本人の意思と、「挑戦を支援する」という上司の理解、両方を持っている。カリキュラムへの参加姿勢が積極的で、質問も多い。学んだことをすぐに実践し、失敗も共有する。

 1年目の5名が、2年目のコアメンバーとして新しい参加者を支援した。彼らは「現場の仲間」として、試行錯誤のプロセスを共有し、心理的なハードルを下げた。「自分もできた。あなたにもできる」。この言葉が、新しい参加者を励ました。

 内発的動機を持った参加者同士のコミュニティが生まれた。彼らは競争ではなく、協力する。成功体験も失敗体験も共有し、互いに学び合う。ナレッジシェアが自然に機能し始めた。

 変革の連鎖が加速した。月15件だった改善提案が、2年目には月30件を超えた。しかも、提案者が多様化した。1年目は5名が繰り返し提案していたが、2年目は15名以上が提案するようになった。

 そして、組織文化の変化を示す象徴的な変化がある。全社Slackチャンネルでのリアクションだ。以前は、どんな投稿にも反応がなかった。しかし1年後には、良い投稿にちゃんとリアクションが付くようになった。ひとつの投稿に100件近くのリアクションが付くこともある。新しいアイデアへの共感、失敗の共有への励まし、成功への祝福。沈黙していた組織が、対話する組織に変わり始めていた。

1年目の失敗が意味するもの

 1年目の失敗は、重要な教訓を残した。

  • 変革は、量ではなく質だ。27名の任命制より、少数の公募制の方が、はるかに効果的だった。人数が多ければ早く広がるわけではない。内発的動機を持った少数が、本質的な変革を生む。
  • 「早く広げたい」という焦りが、変革を遅らせる。全社展開という判断は、効率的に見えるが、逆効果だった。小さく始めて、内発的動機を育て、成功体験を共有する。この地道なプロセスこそが、持続的な変革を生む。
  • 外発的動機では、行動は変わらない。研修を受けさせても、システムを導入しても、評価制度を変えても、それだけでは人は変わらない。「自分がやりたい」という内発的動機があって初めて、人は主体的に動く。
  • 上司の理解なくして、変革なし。内発的動機を持った個人がいても、上司が理解しなければ実践できない。本人の「やりたい」という気持ちと、上司の「やらせてあげる」という理解、両方が揃って初めて変革が起きる。

 この教訓は、DX推進者全体に共通する。多くの企業で、全社展開、任命制、強制参加という方法が取られている。しかし、それでは本質的な変革は起きない。

DX推進者へのメッセージ

 DXの現場で孤軍奮闘しているあなたへ。

 「全社展開すべきでは?」「もっと早く結果を出さないと」。そんなプレッシャーに押しつぶされそうになっていないだろうか。

 この事例が示すのは、逆説的な真実だ。早く広げようとすればするほど、変革は遅れる。

 27名で始めたが、動いたのは5名だけ。経営層から見れば「失敗」だろう。しかし、その5名を大切に育てた。彼らが2年目のコアとなり、15名以上に広がった。焦って全社展開するより、小さく始めて内発的動機を育てる方が、結果的に早く、深く広がる。

 明日からできることは、シンプルだ。

 まず、「やりたい」と言う人を見つけること。無理に説得する必要はない。興味を持った人だけでいい。その人の上司と話し、理解を得ること。そして、小さな成功体験を共有すること。

 重要なのは、2つの条件を揃えることだ。本人の「やりたい」という内発的動機と、上司の「やらせてあげる」という理解。どちらが欠けても、変革は起きない。

 1年目は失敗してもいい。5名しか動かなくてもいい。その5名を大切に育てること。彼らが2年目の種になる。

 変革は、量ではなく質だ。内発的動機を持った少数の挑戦者が、組織を変える。

 この事実を信じて、焦らず、地道に、継続していこう。沈黙していた組織が、対話する組織に変わる日は、必ず来る。

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この記事の著者

熊本 耕作(クマモトコウサク)

 公益財団法人九州先端科学技術研究所(ISIT)特別研究員。現場から経営戦略、組織開発、AI活用まで——部門と領域を越えて全体をデザインする"越境型DXアーキテクト"。
 20年にわたり、現場に深く入り込みつつ全社を俯瞰して構造を再設計。製造・調達・物流のDXからAIによる人員配置最適化、生成AIの全社展...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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