アマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWSジャパン)は2026年1月27日、新年記者説明会を開催し、ロボット基盤モデルの開発に特化した「フィジカルAI開発支援プログラム」を発表した。同社が培ってきた生成AI開発支援のノウハウと、Amazonグループの世界規模のロボティクス経験を組み合わせ、日本のロボット産業の競争力強化を後押しする。
AWS創業20周年、東京リージョン開設15周年のターニングポイント
白幡社長は冒頭、「日本のために、社会のために。その先へ」というスローガンを掲げ、2026年がAWSにとってのターニングポイントであることを強調した。2006年にクラウドサービスを開始してから20年、2011年に東京リージョンを開設してから15年を迎える節目の年となる。
技術への投資について白幡氏は、2024年1月に発表した「2027年までに国内のAI・クラウドインフラに対して約150億ドルを投資する」という計画を改めて説明した。2011年の東京リージョン開設以降、すでに約100億ドルの投資実績があり、東京・大阪の両リージョンは「最も堅牢で、かつ最も安定したインフラ」として国内顧客のイノベーションを支えている。
新プログラム「フィジカルAI開発支援プログラム」の全容
本発表の目玉となるフィジカルAI開発支援プログラムは、ロボット向けの基盤モデル開発を中心に、AIをロボット技術に応用することを推進するものだ。特に「VLA(Vision-Language-Action)」と呼ばれる、カメラ映像などの視覚情報、人間の言葉による指示、実際のロボットの動作を総合的に処理するAIモデルの開発を支援する。
プログラム発足の背景について白幡氏は、「日本でロボット開発を行う顧客との対話がきっかけだ」と説明した。顧客からは「ロボット向けのAI活用を見据えたモデル開発を行いたい」「大規模データの保管や前処理、モデル学習の計算基盤のスケーリングに課題がある」「シミュレーション環境の構築に課題を抱えている」といった声が寄せられていたという。
プログラムでは4つの柱で支援を提供する。
- データ収集・前処理:ロボット開発に必要な大規模データの管理基盤
- モデルトレーニング:基盤モデルの学習環境
- シミュレーション:仮想環境での検証
- 実環境へのデプロイ:実機への展開支援
採択者には、フィジカルAI関連のスペシャリストによる技術支援、総額600万米ドル規模のAWSクレジット、ロボティクス生成AIコミュニティへの参加機会、Go-to-Market支援などが提供される。
Amazonの100万台ロボット運用経験が支える新プログラム
AWSがフィジカルAI支援に乗り出す背景には、Amazonグループ全体として蓄積してきた世界規模のロボティクスのノウハウがある。Amazonは現在、世界300カ所以上の施設で約100万台のロボットを稼働させており、「世界最大級のモバイルロボットの製造元であるとともに運用者でもある」(白幡氏)という立場にある。なお、100万台目のロボットは日本のフルフィルメントセンター(FC)に配備されたという。
Amazonではロボットフリート全体の効率化のために「DeepFleet」と呼ばれる生成AI基盤モデルを導入している。これはAmazon SageMakerなどAWSのサービスを利用して構築されており、ロボットフリートの移動時間を10%改善した。フルフィルメントセンターのネットワーク全体でロボットの移動を最適化し、より迅速かつ低コストでの配送を実現している。
さらにAmazonでは、投資先企業による二足歩行ロボット「Digit」の検証や、触覚センサーを持つロボット「Vulcan」の導入も進めている。Vulcanはフルフィルメントセンター内の棚に保管されているアイテムの75%をピックアップ・収納することが可能だという。
信頼性への投資——セキュリティ基盤と独自技術
技術統括本部長の巨勢氏は、信頼性への投資について説明した。AWSのインフラは「アベイラビリティゾーン(AZ)」と呼ばれる複数のデータセンターのクラスタ構成により、堅牢性を確保している。
ネットワーク面では「ホロコアファイバ」と呼ばれる中空コア構造のファイバを採用し、従来比30%の遅延改善を実現。セキュリティ面では脅威インテリジェンスの強化を進めている。
また、AWS独自開発の「Nitro」システムによるセキュリティ強化や、仕様駆動型の開発ツール「Kiro」の提供により、いわゆる「バイブコーディング」(AIを活用したコード生成)における要件の曖昧さを解消する取り組みも紹介された。
AI技術への投資——選択肢の提供がキーワード
宇佐見氏はAI技術へのアプローチについて「最も重要なキーワードは選択肢の提供だ」と述べた。生成AI構築サービスのAmazon Bedrockは、現在10万を超える顧客が活用している。AIや機械学習の高度な知識がなくても、生成AIの機能をアプリケーションに組み込むことが可能になっている。
基盤モデルについても、Amazon独自の「Amazon Nova」をはじめ、Anthropic、Meta、OpenAI、Googleなど多様なモデルから企業ニーズに合わせて選択できる。チップについてもNVIDIA製だけでなく、Intel、AMD製、さらにはAWS独自のAI専用チップ「Trainium」も選択可能だ。
「フィジカルAIは一時的な流行りではない」
白幡社長は締めくくりとして、「フィジカルAIは一時的な流行りではない」と強調した。ロボットや自動運転、IoTデバイスなど物理世界とAIを融合させる技術は、今後長期にわたって発展を続ける分野であり、日本が強みを持つ産業ロボット領域と組み合わせることで、国際競争力の強化につながるとの見方を示した。
AWSジャパンは2026年も「生成AI実用化推進プログラム」を継続しつつ、今回のフィジカルAI開発支援プログラムを新たな柱として加え、日本のAI開発エコシステムの発展を支援していく方針だ。
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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail : k...
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