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2025年夏号(EnterpriseZine Press 2025 Summer)特集「“老舗”の中小企業がDX推進できたワケ──有識者・実践者から学ぶトップリーダーの覚悟」

酒井真弓の『Enterprise IT Women』訪問記

グローバル人材企業のCIOに根付く「アーキテクトの経験」と「最悪に備える前始末の精神」

第42回:ランスタッド 常務執行役員 IT本部 CIO 林知果さん

CIOになっての変化:ITの言葉ではなく“物語”として説明する

酒井:CIOになって、見える世界は変わりましたか?

林:何を優先し、何をやらないか。判断の幅が一気に広がったのがおもしろいところです。ただ、ランスタッドは約40ヵ国で事業を展開しているので、日本のIT投資一つとっても、グローバルCIOの承認が必要になる。40ヵ国それぞれに事情がありますから、一つの国の細かい文脈まで把握しきれないのは当然です。だからこそ「なぜ日本でこれが必要なのか」を、ITの言葉ではなくビジネスの文脈で、毎回丁寧に説明するようにしています。

酒井:毎回、前提から話すということですか?

林:そうです。相手はもう分かっているだろうと思わず、最初から話す。これを意識してからは、承認がだいぶスムーズになりました。以前は「突然この金額と言われても分からないよ」だったのが、「だからこれが必要なんだね」に変わった。相手に合わせて物語を組み立てる力が、すごく重要だと感じています。

酒井:社内のメンバーに対しても、同じように伝えているのですか。

林:約60人のメンバーがいて、そのうち約2~3割が日本語以外を母語としています。日本語を聞き取れるけれど話すのは難しい人、間違えたくなくて発言を遠慮してしまう人もいる。だからまず、情報が届かない人を出さないことが大事。英語で話して後から日本語でも補足したり、その逆をやったり。生成AIの翻訳も使いますが、自分が選ぶ言葉と翻訳のニュアンスはどうしてもずれることがあるので、直接話す時間を大切にしています。

 その上で意識しているのが、点と点をつなげることです。メンバーは自分の担当プロジェクトは分かっても、隣は見えない。だから「あなたの仕事はこの大きな絵のここにつながっている」と話すようにしています。システムの言葉ではなく、「派遣スタッフの体験がこう変わる」「クライアントにとってこう良くなる」と伝えると、自分の仕事を「点」ではなく「線」や「面」で捉えてもらいやすくなるんです。

 実際、従業員満足度調査でIT部門のスコアは高いんです。目の前の苦労が大きな未来につながっていると思えるかどうか。その違いは大きいと思います。ただ、同じビジョンでも、メンバー、部長、日本の経営層、グローバルCIOで伝え方は変えなきゃいけない。それぞれ気にすることが違いますから、どの言葉を選び、どこに力点を置くかは常に調整しています。

酒井:物語の伝え方は一つではない、ということですね。

林:まさにそうです。同じ桃太郎でも、「桃から人が生まれました」のほうが伝わる人もいれば、「これは鬼を倒す壮大な物語です」のほうが心をつかめる場面もある。

酒井:その語り部のスキルは、どうやって身につけたんですか?

林:IBM時代にエンジニアとお客さまの橋渡しをしていたのが下地にはなっていますが、純粋に場数だと思います。事業会社で経営層に投資の承認を求める場面で、うまく意図と価値を伝えることができなかったことが何度もあります。だからこそ今、メンバーには「バッターボックスに立つ回数が大事だ」と言っています。失敗したからとすぐ別の人に代わるのではなく、やり切ってもらう。私自身、そうやって育てていただいたので。

画像を説明するテキストなくても可
ノンフィクションライター 酒井真弓(著者)

AIに任せきりにしない ヒューマン・イン・ザ・ループの実践

酒井:もう一つ気になるのが、AIの活用です。

林:今、一部の業態で候補者の方からいただいた履歴書をAIで読み取って、スキルや特性のタグ付けを自動で行う仕組みを入れています。それをそのまま鵜呑みにはしていません。ヒューマン・イン・ザ・ループで、必ず人が「この方にこのタグは本当に合っているか」を判断するゲートを設けています。

 おもしろいのは、経験の浅いコンサルタントにはAIのタグ付けが助けになる一方、ベテランからすると「余計なタグが邪魔」と感じることもあるというフィードバックもいただいています。熟練度によって、AIの助けが効く場合と調整が必要なことがあるということだと思います。

酒井:林さん自身は、生成AIをどう使っていますか?

林:実は「私が生成AIをどう使っているか絵にしてください」とGeminiに頼んだら、Geminiを擬人化したロボットが片膝をついて自身の頭を叩いている絵が生成されたんです(笑)。「ここ整合性取れてないからやり直して」「この観点で見たらどうなる?」などと延々やっているので、相当酷使されていると感じているんでしょうね。チームメンバーにその絵を共有したら、「これは酷い」「いつかAIに復讐されるだろう」って。

酒井:かわいそう(笑)

林:課題に対するソリューション案の検証やファクトチェック、別の角度からの提案はもちろん、グローバルCIOへの伝え方を相談したり、「こういうバックグラウンドの人に一番響く言い方は?」と聞いたり。周囲に相談しづらいことも多いので、生成AIが壁打ち相手になってくれている感覚です。

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事業会社で得た“最悪の事態を想定”する「前始末」が根底に

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この記事の著者

酒井 真弓(サカイ マユミ)

ノンフィクションライター。アイティメディア(株)で情報システム部を経て、エンタープライズIT領域において年間60ほどのイベントを企画。2018年、フリーに転向。現在は記者、広報、イベント企画、マネージャーとして、行政から民間まで幅広く記事執筆、企画運営に奔走している。日本初となるGoogle C...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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