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味の素グループ、経費精算の確認業務にAIエージェントを導入 年間1万時間の削減を見込む

 経理分野に特化したAI開発を手掛けるファーストアカウンティングと、味の素グループの財務・経理業務を担う味の素フィナンシャル・ソリューションズ(以下、味の素FS)は2026年4月24日、共同で経理AIエージェントの開発を進め、味の素FSで同年2月から本稼働を開始したことを発表した。味の素グループ全体で年間10,000時間の業務削減を見込むという。発表に先駆けて、4月22日に記者向けに説明会を開催した。

 冒頭、ファーストアカウンティングの森啓太郎社長は、現在の日本における経理人材の現状を「供給崩壊」という強い言葉で表現した。同社の解析によると、2010年から2021年にかけて日商簿記検定2級の合格者数は約30%減少しており、経理実務の担い手が不足しているという。森氏は「多くの企業で経理パーソンが取れない根本原因は、少子高齢化だけでなく、商業高校の減少や大学入学共通テストでの簿記・会計の廃止といった教育現場の構造的な変化にある」と分析する。

 この人材難を解決する手段として提示されたのが、同社の提唱する「経理シンギュラリティ構想」だ。これは、AIの能力が経理実務において人間の能力を超える状態を指す。森氏は、自社開発のAIモデルが日商簿記検定1級レベルや公認会計士試験の短答式試験において、汎用型AIを上回り満点に近い成績を収めたことを報告した。今回の味の素FSとの取り組みでは、これまで人間の目視でしかできないとされてきた経費精算の内容判定・承認業務にこの知能を適用している。

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ファーストアカウンティング株式会社 代表取締役社長 森啓太郎氏

 この取り組みについて森氏が強調したのは、AIが単に領収書の金額を読み取るだけでなく、企業固有の社内規定や出張旅費規定を学習し、妥当性を判断する点だ。たとえば、同じ「水」の購入であっても、ある企業では会議費であり、別の企業では消耗品費や福利厚生費となるなど勘定科目が変わる。これまではこうした企業ごとの暗黙知や運用上の細かなルールがあるために、AIによる自動化は困難とされ、BPOなどの人手に頼らざるを得なかったという。

 経理AIエージェントは、LLMをベースに、味の素グループの規定類を学習している。これにより、タクシー利用の妥当性や接待費の人数確認など、従来はBPOにて目視で行っていた確認作業をAIが代替。森氏は「既存の製品の10倍のパフォーマンスを出してこそイノベーション。我々は人間の10倍速、かつコストを半分に抑えることで、生産性を20倍に引き上げることを目指している」と、効率性を強調した。

 味の素FSは、味の素の100%子会社で、財務・経理部門を分離・独立させたシェアードサービス会社であり、現在、グループ26社のうち8社の業務を受託している。同社 経営企画部 DXOE推進グループ長の木田啓太氏は、導入の背景として「経費精算のチェック業務には多大な工数が割かれており、その大半は社内規定に準拠しているかどうかの判定業務だ」と述べる。従来、これらの業務はBPOに委託されていたが、担当者によってルールの解釈に差異が生じ、差し戻しが発生するなど品質の維持に課題があったという。また、人材の流動化が進む中で、明文化されにくい暗黙知の判断基準を維持し、持続可能な体制を構築することが求められていた。

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 そこで同社は、ファーストアカウンティングの経理AIエージェントにグループ独自の社内規定を学習させ、自動で承認判定を行う仕組みの構築に着手。この導入を可能にしたのは、同社が以前より推進してきた「やへか(やめる・へらす・かえる)」という業務整理の取り組みが大きい。木田氏は「もともと業務フローの標準化とルールの可視化を進めていたため、AIへの学習がスムーズに進んだ」と説明する。2025年10月のキックオフから約半年間の準備期間を経て、2026年2月に本番稼働を開始。SAP Concur上の申請に対し、AIが規定照合を行うことで、年間約10,000時間の工数削減を見込んでいるとした。

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 木田氏は、AI導入によるリソースの変化について「BPOの工数を削減して終わりではなく、空いたリソースに別の業務を委託することで、味の素FSの社員は、より事業に貢献する領域、たとえば管理会計や業務コンサルティングといった付加価値の高い業務に注力していくことができる」とコメント。

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味の素フィナンシャル・ソリューションズ株式会社 経営企画部 DXOE推進グループ長 木田啓太氏

 また、汎用型AIではなく領域特化型AIを選択した理由について「法改正や会計基準の変更に自社で対応し続けるのは保守コストがかかる。経理分野に特化したプラットフォームを利用する方が、中長期的な持続可能性が高い」と話した。

 味の素FSは今後、現在8社にとどまっている受託範囲をグループ全体へ拡大するとともに、経費精算以外の領域、たとえば新リース会計基準への対応や請求書処理などにもAIエージェントの適用を検討している。「定型的な確認作業はAIに任せ、人間は現場とのコミュニケーションや意思決定支援といった業務にシフトする」という方針のもと、同社は経理業務の高度化を目指していく。

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この記事の著者

小山 奨太(編集部)(コヤマ ショウタ)

EnterpriseZine編集部所属。製造小売業の情報システム部門で運用保守、DX推進などを経験。

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