金融AIは「使う」から「所有して育てる」へ──NVIDIA、楽天G、NRI、リコーらが実践例を開示
NVIDIA金融AI Meet-up with Macnica(前編)
楽天グループ:金融AIは「使う」から「所有して育てる」へ
後半セッションの口火を切ったのは、楽天グループのRakuten Institute of Technology(楽天技術研究所)でフィンテックのAI・データコンサルティングを率いる柴田祥氏だ。スライドのタイトルは「金融向けAIは"使う"から"所有して育てる"へ」──NVIDIAのブランコ氏の主張と重なる方向性を、日本企業の立場から実装してみせた発表だった。
今回報告されたのはR&Dプロジェクトの成果だ。金融タスクへのファインチューニングを「実際にやってみて、どれほどの負荷がかかり、どれほどの性能改善が得られるかを知見として得ること」を目的に据えた取り組みだったという。
取り組んだのは日本株式分析タスク──エクイティアナリストの業務を補助するLLMの開発だ。「Qwen2-30B」をベースモデルとし、NVIDIAの「NeMo Curator」を使ってデータを整形、SFT(教師あり学習)によるファインチューニングを実施した。
評価タスクは3種類だ。アナリストの目標株価の騰落予測、企業の財務情報公開後の実株価変動の二値分類、新たなマクロ経済指標を受けたTOPIX17シリーズ各指数の動向予測。JPTおよびLSEG(旧リフィニティブ)から購入した金融データと公開情報を組み合わせた学習データを使い、ベースモデルとGPT-4oとの三者比較を行った結果、特定の騰落予測タスクではファインチューニング後のモデルがベースモデルを最大10ポイント上回り、金融特化LLMの有効性が確認されたという。
柴田氏が何より重視したのはデータの質だ。「金融のドメイン知識なしにはデータ設計もままならない」という。NeMo Curatorは導入が容易でCPUからGPUまで柔軟にスケールできる点を評価しつつ、このR&Dの知見を実務でどう活かすか、継続的な改善を見据えた運用準備が今後の課題だと示した。
楽天グループが70を超えるサービスの中で蓄積してきたデータは、「コアアセット」として外部に渡すのではなく、内部で育てていく──その姿勢を示した。
ファーストアカウンティング:合成データで機密の壁を破る
続いて、会計AI専業スタートアップのファーストアカウンティングの講演。共同創業者でFA Researchチーフサイエンティストの藤武将人氏は、2027年4月施行の新リース会計基準を起点とした契約書判定LLMの開発を発表した。
新基準では、これまで費用として処理していた不動産や航空機などのリース資産をバランスシートへ計上することが求められる。多くの店舗を持つ企業ではROEやROICへの影響が懸念される一方、適用範囲の把握のために契約書一件ごとのリース該当性判定という膨大な確認作業が発生する。この判定はAIで自動化できるはずだが、藤武氏によれば「学習データ」が最大の壁になるという。
機密情報である実際の契約書はそのまま学習に使えず、判定根拠を付けた教師データの作成コストも高い。企業ごとの書式の偏りも課題だ。
同社は、これら3つの障壁を乗り越えるためにNVIDIAの「NeMo Data Designer」を導入した。契約書の雛形を「種データ」として多様な合成データを大量生成し、検証するパイプラインを構築した。生成に使うモデルは「Nemotron」、ファインチューニングのターゲットモデルには軽量な「Nano-Nemotron 9B」を選んだ。合成データには契約書本体だけでなく、要約、日付・金額といった抽出項目も同時に生成し、整合性をNeMo Curatorで検証するという設計だ。
結果は際立っていた。情報抽出能力はベースモデルの89%から100%へ向上し、契約書レビューの品質をGPT-4oと比較すると98%のケースで今回のモデルが優位または同等だった。定性的にも「元の依頼への忠実性」や「実務で揉めやすい論点の押さえ」が確認されたという。課題として合成データが「綺麗すぎる」点も率直に認め、OCRの読み取りミスや複雑な例外条項を含む「泥臭いデータ」への対応が今後必要だと述べた。
藤武氏は今後の展開をこう描く。「単に契約書が分かるLLMを作るのではなく、業務パイプライン全体で正しく判断し処理をつないでいけるAIエージェントへ発展させたい。その際、機密情報を守りながら高品質な合成データを作れるNVIDIAのツール群は非常に強力な武器になる」
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