「全ての企業」のインフラがAIについていけなくなる……Ciscoの新発表は打開の有効策となるか?
AIエージェントの“大食い”に耐えられるインフラ/ポスト・ミュトス時代のセキュリティ/運用体験のパラダイムシフト
「AI処理はデータセンター内で」という前提はとうに崩れ去った
多くの人が、「AIの大半はデータセンター内で処理されるものだ」と考えてきたかもしれない。しかし先述のとおり、そのニーズは我々のワークプレイス(職場)でも興りつつある。つまり、いわゆる「社内のネットワーク」も根本から再定義が必要というわけだ。
過去1年間で、Ciscoは拠点向けのネットワークポートフォリオを全面刷新した。スイッチ、ルータ、ファイアウォール、Wi-Fiアクセスポイント、さらには産業用デバイスに至るまで……。具体的な成果としては、まず「ハードウェアの統合」が行われた。法人向けネットワークスイッチ「Catalyst」と、ネットワーク機器管理ソフトウェア「Meraki」を統合し、管理ソリューションと管理画面をすべて1つに統一した。
そして、Catalystシリーズの最新モデル「Cisco Catalyst 9550」が紹介された。Cisco史上、最も強力なコアスイッチだとパテル氏。エージェントのワークロードがこの先増大し、大量のデータ処理が必要になることを前提に設計・構築されていると説明する。また、量子時代を見据えた耐量子セキュリティも備えるとのことだ。
ポスト・ミュトス時代の脅威に対抗できるセキュリティとは?
続いてパテル氏が話題を投げかけたのは、「ポスト・ミュトス(Post-Mythos)時代」に立ち向かうセキュリティのアプローチについて。脆弱性の発見から攻撃・侵入までの時間は、今や数日ではなく“数秒の戦い”になっている。これに対応するためには、体系的なセキュリティアプローチの刷新が必要だ。
Ciscoはこの問題に対し、目先の対策(戦術的施策)としてパッチを迅速に更新・提供する以外に、以下2つの戦略的施策に取り組んでいる。
1. 脆弱性シールド:仮想化環境でのミティゲーション(緩和・軽減)対策
パッチを適用するサイクルは今後どんどん加速していくが、組織の事情ですぐにパッチを適用できないこともある。そこで、パッチ適用の「合間」の期間にできることを、メカニズムとして提供する。それが「VAM(仮想アプリケーション・ミティゲーション)」だ。パッチが適用されるまでの間、代替の補償コントロール(緩和策)を適用できるようになる。
2. 攻撃の封じ込め:ハイブリッド・メッシュ・ファイアウォール
「脅威が既にネットワーク内に侵入しているかもしれない」という前提に立ち、ネットワークのファブリック全体にラテラルムーヴメントなどの異常動作を検知・遮断するセキュリティポイントを散りばめる、メッシュ型のファイアウォールを提供する。
加えて、AIエージェントのセキュリティ確保も不可欠だ。現状、人々はAIエージェントを「そこまで信頼していない」というのが現実的な温度感だろう。では、信頼して仕事を委ねるためには何が必要か。パテル氏は、大きく以下3つのアジェンダを挙げた。
- エージェントを外の世界から守る:プロンプトインジェクション攻撃やデータ汚染などといった外部攻撃からエージェントを守る
- 自社の世界をエージェントから守る:エージェントが意図しない形で暴走を始めたとき、それを即座に検知して制約するガードレールを設ける
- マシンスピードでの検知と対応:上記2つのオペレーションを機械の速度で実行できる環境を構築する
Ciscoは2025年の初めに「Cisco AI Defense」という製品をローンチした。これは、AIモデルやアプリケーションにおいて、どのようなデータが入力されているかを可視化し、挙動を監視し、意図しない動作をした場合には実行を遮断できるソリューションだった。このAI Defenseの対象が、新たにAIエージェントにも拡張された。エージェントのテスト機能やガードレール機能も搭載されている。
そして2026年3月には、「Cisco DefenseClaw」という製品をローンチした。GitHubおよび法人ユーザー向けに提供されるオープンソース製品だ。AIエージェントやMCP環境をスキャンするための様々な機能群が実装されている。なおオープンソース版だけでなく、2026年7月には「Cisco Secure Cloudの」一部機能としてもDefenseClaw上の機能が提供開始されることが決まっている。
「ゼロトラスト」もAIエージェントを前提として拡張せねば
もう一つ、ゼロトラストを人間からAIエージェントへと拡張することも考えねばならない。人間に対するゼロトラストは、常に必要最小限のアクセス権を与えるアクセスコントロールを基本としている。しかしエージェントの場合、各エンティティがどんな行動をするか管理する「アクションコントロール」が必要となる。エージェントの挙動をリアルタイムで検証し、制御するために以下3つの施策が必要だ。
- 組織内の全エージェントのアイデンティティを把握する
- 全エージェントのアクションを承認する
- エージェントの挙動一つひとつから生じるリスクに対し、リアルタイムで適応する
特にアイデンティティ管理は、エージェントセキュリティの基盤となる。そこでCiscoは、2026年5月に“非人間アイデンティティ”の独自技術を持つAstrix Securityという企業を買収する意向を発表した。
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名須川 楓太(編集部)(ナスカワ フウタ)
サイバーセキュリティとAI(人工知能)関連を中心に、国内外の最新技術やルールメイキング動向を取材しているほか、DX推進や、企業財務・IRなどのコーポレート領域でも情報を発信。武蔵大学 経済学部 経済学科 卒業。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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