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社内でのAI活用がPoCから「全社展開」へと進まないワケ──AIの有用性だけでは突破できない3つの壁

解決策となる「生成AIエージェント基盤」には2つの機能が必要、セゾンテクノロジーが出した答えとは?

 生成AIのPoC(概念実証)は、少人数で試すだけならそう難しくない。しかし、いざ業務に役立てようと利用範囲を拡大した瞬間に、それまでは見えてこなかった様々な「壁」が社内のあちこちから噴出する。EnterpriseZine編集部が2026年6月9日に開催した「EnterpriseZine Day 2026 Summer」で、セゾンテクノロジーの笹田結里花氏が、多くの企業が陥る「PoC疲れ」の正体を整理。そのうえで、全社の業務を支える「生成AIエージェント基盤」に必要な考え方と機能を解説した。

“PoC疲れ”の正体、「AIの有用性」だけでは越えられない壁

 システム間のデータ連携やデータ活用、AI活用を支援するセゾンテクノロジー。主力製品であるファイル転送ツール「HULFT」は国内シェアで22年連続トップを誇り、グローバルでも46ヵ国で利用されている。

 笹田氏は、データ連携・活用ソリューションの顧客提案や、AIエージェントに関する技術企画を担当している。同氏は冒頭、「皆さんの生成AI導入はどのステージにあるか」と問いかけた。

株式会社セゾンテクノロジー データインテグレーション事業部 笹田結里花氏
株式会社セゾンテクノロジー データインテグレーション事業部 笹田結里花氏

 生成AIの活用は、「知る・理解する」段階から、議事録作成やメール要約といった「個人タスクの最適化」を経て、やがてRAGやエンタープライズサーチを用いた「部門業務への適用」という成熟の過程をたどっていく。今は多くの企業が、個人利用から部門展開へと範囲を広げようとしている局面にある。

 その過程で、無意識に「なんだか疲れたな」と感じてはいないだろうか。実は、それは“PoC疲れ”ではないか──笹田氏はそう指摘する。

 PoCそのものが悪いわけではない。少人数でシナリオを検証し、業務に役立つかを見る段階までは、PoCはそれほど難しいものではない。問題はその先だ。AIプロダクトの利用範囲を広げようとした瞬間、PoCのときには見えていなかった論点が社内のあちこちから噴き出してくる。誰に使わせるのか、どの業務で使うのか、どのデータを使うのか、コストは誰が見るのか、品質は誰が管理するのか、そして増えていくAIをどう統制するのか……。

 利用範囲を広げようとした瞬間に、AIの有用性だけでは乗り越えられない壁が出てくる。ここで鍵となるのが、「AIの有用性+α(プラスアルファ)」だという。そのプラスアルファとは、①権限②セキュリティ③データ整備の3つだ。その理由と具体的な施策を見ていこう。

【権限の壁】誰が管理し、誰がどの範囲で利用するのか。責任者は誰か

 PoCから全社展開のフェーズへ移ると、まず「権限」の観点で変化が起こる。限定的なトライアル期間ともいえるPoCにおいては、AIの利用者は特定部門の数名に限られるうえ、誰が使っているのかも把握しやすい。「まずは使ってみる」「反応を見る」というのが目的だからだ。

 しかし部門展開、さらには全社展開へ進むと、管理者は誰か、利用者は誰か、異動や退職があったときに誰が権限を見直すのかといった管理が必要になる。「権限の壁とは、使える人を増やすだけでなく『誰が、どの範囲で、どの責任の下で使うのか』を設計することだ」と笹田氏は整理する。

 同氏は、ある社内AI活用プロジェクトのユースケースとともに具体例を示した。プロジェクトの推進役である担当者Aは、PoC段階では数名の検証メンバーと営業用の「提案支援AIエージェント」を検証・試用していたが、そのときはAIが学習・処理するデータは、検証用に選んだ製品資料や提案サンプルに限られていた。

 ところが全社展開の話になると、営業部門だけでなく人事部門、ひいては新入社員からも「使いたい」という声が上がってきた。しかし、部門や全社に展開するとなると、そこには特定部門や役員だけがアクセスできるような資料も存在する。そこでAは、AIエージェントごとに権限を設定し、入口に制限をかけることでこの壁を乗り越えた。

【セキュリティの壁】データをどこまで見せるのか、どう守るのか

 続いて、「セキュリティ」でも勝手が大きく変わってくる。PoC段階では、サンプルデータや機密性の低い情報を使い、影響範囲を小さくした状態で検証できる。しかし、全社で業務に使うとなれば、AIはどうしても実データに近づいていく。

 また、扱う情報が増えれば増えるほど、当然だが守るべき情報も増えていく。AIがアクセスしてよいデータ、してはいけないデータをどう分離するか。「機密性の高い情報に限っては、権限のない利用者には見せない」という設計が可能か。AIの回答に、本来出してはいけない情報が混ざらないよう設計できるか……。セキュリティの壁とは、AIにデータをどう渡すかではなく、「業務で使えるAIの精度を実現しながらも、守るべき情報をどう守るか」を考えることだ。

 ユースケースでは、担当者Aがある案件について、AIに「次の対応方針を教えてください」と相談する場面が紹介された。AIはなかなか筋の良い回答を出してきたものの、Aはふと不安になる。この回答は、本来見せてはいけない資料まで参照していないか。機密情報や個人情報が混ざる可能性はないか……。そこでAは、エージェントごとにあらかじめ参照範囲の制限をかけておくことで、この壁を乗り越えた。

【データ整備の壁】「記録のためのデータ」と「活用のためのデータ」は違う

 最後に「データ整備」の壁だ。PoC段階では、AIに資料を入れてみて「それらしい回答」が返ってくるだけでも手応えを感じられるだろう。ただ、壁打ち相手としては使えても、全社運用の観点では力不足である。

 そもそも、ただ情報をそのままAIに読ませるだけでは不十分だ。なぜなら、業務データは「AIが使いやすい形」で整理されているとは限らないからだ。資料の形式や保管先の整理、最新版・正式版の判別、背景知識や暗黙知の言語化──これらが整って初めて、それぞれのデータが意味を持つ。笹田氏は、データ整備の壁とは「単にAIに情報を入れることではなく、AIが業務で『判断材料として扱える状態』にすることだ」と述べる。

 こちらのユースケースでは、検証用にまとめられた綺麗な資料では上手く回答できたAIが、案件管理システムの商談履歴や問い合わせ記録、受注・失注理由の入力欄といった、「人が業務を記録するために残したデータ」では、判断材料として使いにくいという現実が示された。記録のためのデータを「活用のためのデータ」に変えるには、それなりの整理が必要となる。

“+α”の正体とは? 積み上げるだけで成果に結びつくとは限らない

 権限、セキュリティ、データ整備──限定的なデータを少人数での検証のためだけに使うPoCでは、これらの論点が小さく見えてしまいがちだ。だが、全社展開ではそうはいかない。AIを全社で使うために必要な3つの観点を、組織としてどう管理するか。

 冒頭、これら3つの観点を「AIの有用性+α(プラスアルファ)」と呼んだ。このプラスアルファの正体は、一言でいえば「ガバナンス」だと笹田氏。ただし、ここでいうガバナンスとは、3つの観点を個別にルールで縛ることではない。「“業務で使えるAI”を組織として統制し、安心して広げられる状態を作ること」こそがガバナンスである。

 笹田氏は、セゾンテクノロジーの社内で推進されたAI活用プロジェクトの中で得た気付きを3点挙げた。

  1. 個人の生産性向上を積み上げても、組織全体の生産性向上に直結するとは限らない
  2. AIやエージェントを作ることよりも、それをどう運用しつづけるかが難しい
  3. SaaSごとのAIだけでは業務横断のAI活用にはなりにくく、「AIは増えているのに業務がつながらない」状況が起こり得る

 だからこそ、AIを組織の中で安全に使えるように、手綱を引ける状態にすることが重要だと同氏は述べた。

そのための「生成AIエージェント基盤」、連携と実行を司る2つのプラットフォーム

 こうした課題を解決する手段として、複数のAIエージェントを業務データ・権限・コストの観点から統合的に管理する「生成AIエージェント基盤」がある。この基盤を構築するには、オンプレミスからクラウド、ファイルサーバーまで、多様なデータソースを引き込む機能と、それらを探して集め、示唆を出す複数のAIエージェントを取りまわす機能が必要だ。

 セゾンテクノロジーは、これをiPaaS(データ連携プラットフォーム)である「HULFT Square」と、AIの業務実行基盤「Agent Orchestration」によって実現する。HULFT Squareは、社内外のシステムやデータソース間を接続し、業務に必要なデータをAIが扱いやすい形で連携する役割を果たす。そしてAgent Orchestrationは、複数のAIエージェントの作成・管理・利用を担う基盤だ。GPTやClaude、Geminiといった複数のAIモデルを使い分け、SQLの自動生成とオートリトライ、エラー検知・自動修正によって精度を高める仕組みとなっている。

 Agent Orchestration上では、各AIエージェントのモデル選択や関連ドキュメント、アクション設定をノーコードで行える。営業部門が使う提案戦略立案エージェント、情報システム部門が使う社内問い合わせ対応エージェント、人事部門が使うタレントマネジメントエージェントなど、業務に応じたAIエージェントを作成し、業務に紐づいた回答や示唆を得るだけでなく、その後の業務処理まで自律的に実行できる。AIを単なるチャットではなく、業務プロセスの一部として組み込むことが可能になるというわけだ。

 Agent Orchestrationの権限管理は、①全体管理者②エージェント管理者③ユーザーの三階層で設計されている。全体管理者は、組織全体におけるエージェントの利用状況を俯瞰し、エージェント管理者は部門・業務ごとにエージェントを作成・育成して、利用範囲や扱うデータを管理する。そしてユーザーは、許可されたエージェントを日々の業務で使う。こうして役割を分けることで、組織としての統制と現場での使いやすさを両立できる。回答精度は、構造化データはSQL、文書はテキスト検索、意味の近さはベクトル検索と、データの種類や用途に応じて検索方法を組み合わせることで担保する。

 ここまでを踏まえて、AI活用を進めるうえでは「試すことばかりではなく、小さくてもとにかく『使い始める』」という考え方を大切にすべきだと笹田氏は訴える。PoCの繰り返しに終始するのではなく、部門や特定の業務で実際に使い始め、ユーザーの反応や改善要望を取り入れながら成功体験を積み上げ、さらに他の部門や業務へと横展開していくことが重要だ。その際、ポイントは2つ。「最初から万能の巨大基盤を目指さないこと」、そして「AIを実験で終わらせず、実際の業務を支える仕組みへと早期に育てていくこと」である。

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