みずほFGがAIエージェントの“量産体制”を確立 開発基盤「Wiz Base」で最大70%の工数短縮
AI CoEが「金融品質のガバナンス」と「アジャイル開発」の両立を主導
生成AIの爆発的普及でチャットツールが当たり前になった今、IT部門の関心は自律的に業務を完遂する「AIエージェント」の実装へと急速にシフトしている。しかし、厳格なセキュリティとガバナンスが求められる金融機関において、AIの機敏性を活かしつつ安全性を担保することは大きな壁となっている。この難題に挑むのが、みずほフィナンシャルグループ(以下、みずほFG)だ。2026年6月9日に開催された「EnterpriseZine Day 2026 Summer」の特別講演に、デジタル戦略部で開発責任者を務める齋藤悠士氏が登壇。本稿では齋藤氏が明かした、同グループにおけるAI推進体制、AWS上に構築した次世代AI基盤「みずほWiz Base(以下、Wiz Base)」、そしてAIエージェントを量産する独自の仕組み「エージェントファクトリー」の取り組みを紹介する。
“攻守”の両面を司る「AI CoE」発足で、活用推進を加速
汎用LLMは高い性能を誇る一方で、金融機関の実務にそのまま適用しようとすると、金融規制や社内規程、専門用語など独自のドメイン知識の欠如や、もっともらしい嘘を出力するハルシネーションの問題に突き当たる。さらに、顧客データの漏洩防止や監査性の担保、アクセス制限など金融特有の法規制をクリアしなければ、本番運用は困難だ。
みずほFGでは、AIを個別の便利ツールとして使う段階を超え、自律的なAIエージェントを複数連携させたマルチエージェントシステムによって業務全体を変革するロードマップを描く。齋藤氏は「将来的に人は、AIが行う業務の設計や管理監督が中心となる『AIネイティブな企業』へのトランスフォーメーションを構想しています」と語る。まずは、多数のエージェントを構築し、業務プロセスに組み込むために組織づくりを推進したという。
この変革を牽引するのが、2024年4月に発足したAIの知見を集約する「AI CoE」である。AI CoEの特徴は「攻め」と「守り」を同じ組織の中で推進している点だ。攻めの領域では、実際のアプリ構築やイノベーション創出、経営陣向けの情報提供・啓蒙を行うとともに、進化の激しいAI技術を能動的に研究するR&Dチームを構える。一方の守りの領域では、AI倫理基準の策定や法規制・業界基準への準拠といったガバナンス統制を担う。
齋藤氏は、「1つのCoEの中に、攻めと守りの両方を持っているところが、我々の組織作りの最大のポイントです」と強調する。この両輪が同一組織に存在することで、セキュリティとガバナンスを犠牲にすることなく、最新技術の能動的なキャッチアップと意思決定を両立している。
約50名がアジャイルに開発をリードする「内製開発ラボ」
AI CoEの下で、アイデアを形にしていくのが「内製開発ラボ」だ。ラボには現在約50名のエンジニアが所属し、15〜20のスクラムチームを組んで、常時50個ものPoCプロダクトを日々並行して開発しているという。
内製開発ラボでは、ビジネスニーズや技術、論文等からヒントを得るR&D起点の依頼をアジャイルに開発する。技術スタックは、フロントエンドにReactやNext.js、バックエンドにはPythonベースのFastAPIを採用。AIエージェントフレームワークには最新のAIツール群を活用し、インフラにはAWSを用いたスケーラブルな環境を内製で構築したという。
齋藤氏は、「開発はコーディングだけが最速になる取り組みではなく、継続的な改善が非常に重要になります」と話す。チームではCI/CDや自動テストを徹底し、本番リリース後も品質改善を繰り返す仕組みを完備している。
局所的な最適化にとどまらず全社変革を成し遂げるため、2026年度から「DXタスクフォース」と「DX Lead」を新たに設けた。これまでの個別開発とは異なり、DXタスクフォースはグループ全体のプロセスを俯瞰し、AI前提の業務プロセスを定義して、取り組むべきテーマの優先順位付けと横断調整を行う。トップはグループCDTO(チーフ・デジタル・トランスフォーメーション・オフィサー)が務め、全社へのガバナンスを確保。実際の現場展開においては、ビジネスドメインごとに配置された推進役の「DX Lead」が自部門の実装をリードし、AI CoEが一体となって業務変革を加速させる体制を構築している。
この記事は参考になりましたか?
- EnterpriseZine Day 2026 Summer レポート連載記事一覧
-
- みずほFGがAIエージェントの“量産体制”を確立 開発基盤「Wiz Base」で最大70%...
- 全社AI活用率99%のMIXIは、いかにコストを最適化しているのか?CTOが語るインフラ運...
- 生成AIの本番運用開始、しかし使い物にならない……高精度な自社専用LLMを実現するデータ整...
- この記事の著者
-
小山 奨太(編集部)(コヤマ ショウタ)
EnterpriseZine編集部所属。製造小売業の情報システム部門で運用保守、DX推進などを経験。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア
