重要な役割ながら評価されにくいシステム管理者にもっと感謝を
ビジネスに欠かせないインフラとなったITシステム。しかし、その裏側で日夜安定稼働に奮闘しているシステム管理者の存在を意識することは少ない。
編集者で女子美術大学短期大学部教授の伊藤ガビン氏が「問題がなければ意識されず、トラブル時には叩かれる。IT業界にも様々な職種がある中、最も評価されにくいのではないか」と投げかけると、長年に渡り、ベンダー、システム管理者双方の立場を知る「システム管理者の会」発起人で株式会社ビーエスピー 代表取締役社長の竹藤浩樹氏は「私がこの世界に入ってから25年経つが、3Kどころか環境が厳しくなっている。企業活動を支える重要な役割を担っていることを感謝され、誇れるようにしたい」と語った。
また、NHK教育番組「ITホワイトボックス」で様々なITの現場取材経験を持つタレントの森下千里氏は「管理者は裏で仕事をしてくれている見えない存在。取材するようになってはじめてこんなに多くの人が支えてくれているのかと気づいた」と自らの経験を語り、「それだけに、なかなかユーザーがダイレクトに感謝を伝える機会がない」とユーザーとの距離感を代弁した。
一方、銀行システム開発などで多くのシステム管理者の仕事の現場に立ち合ってきた株式会社セールスフォース・ドットコム 代表取締役社長の宇陀栄次氏も「社会インフラとなったITを支えるために体を張って支えている、本当にすばらしい仕事だと尊敬している」と語り、それを受けて「日本のシステム管理者のサービスクオリティは高い。そのプライドには頭が下がるほど、もっと感謝されていい」と竹藤氏も絶賛した。
システムの二極化とクラウド化 新たな時代に求められるもの
システム管理者の作業は地道なものが多く、ユーザーからの理不尽な要求も少なくない。森下氏は「自分も含め、マニュアルすら読んでいない人も多い。ユーザー側の知識が足りない中で対応してくれる管理者には頭がさがる」と自らの体験を含めてシステム管理者への感謝を述べた。
宇陀氏は「利用者が増えて誰もが直感的に分かるようになる部分と、難しく堅牢で深い知識を持つ人しか触れられない部分と二極化が図られていくのではないか」とシステムと管理の将来を語り、さらに「今までベンダーが全責任を持たざるを得なかったが、システムには多くの立場が違う人々が関わる『群衆の叡智』型の開発が生まれつつある」と新しい可能性を示唆。それを受けて、竹藤氏も「クラウドで仕事のやり方や評価の仕方が変わり、アプリケーションは高度で多様化するだろう」と応じた。
宇陀氏はさらに「ITはまだまだ未熟な産業。ライフラインとはいえ、水道や電気に比べると安定性に問題がある。それを支えているのがシステム管理者。ベンダーはもっと自らに厳しくなるべき」と業界側からの辛口の意見を述べ、森下氏は「ITエンジニアはあしながおじさんのよう。知らないうちに、どんどん欲しいものが実現されていくことに感謝したい」とユーザー側からのエールを送った。
クラウドによる効率化で、社会に大きなインパクトを
クラウドの目的として経費削減効果が注目されているが、決してシステム管理者の総数が変わるものではないという。しかし、管理の質は変わり、アウトプットも変わっていくことが予想される。「どのような変化があるのか」という伊藤氏の投げかけに、竹藤氏は「まだまだクラウドが担う部分は全体の1%にも満たない。
しかし、電力システムなどIT以外では、所有から利用へという利用形態は普通のこと。慣れれば活用は広がるだろう」という。それに伴い、システム管理者は「何を選ぶか」というディレクター的な役割を果たすことになり、宇陀氏は「クラウドの活用でシステム管理者の逆襲がはじまる」とジョークを交えつつも、「システム管理者の生産性が向上することで、社会のシステムも大きく進化する。それによって地域や社会が活性化することを望みたい」と展望を語った。
その後、森下氏が手がけるカレーショップの話に脱線しながらも、「クラウド技術は外来産だが、日本的なアレンジでカレーをカレーライスにしたように、ITでも新しい価値を生み出してほしい」と宇陀氏がまとめ、竹藤氏も「新時代はチャンス、感謝される仕事としてプライドを持ってがんばろう」と激励した。森下氏も「そのモチベーションのためにもユーザーは、いっそうの感謝の気持ちを表現しなければ」とコメント。くだけた雰囲気に多彩な示唆があふれるトークセッションに聴講者からは大きな拍手が寄せられた。