AIがコードを書く時代、開発者は“コードの外側”を設計すべし──AIを「回す」インフラ全体の設計思想
AI導入の壁を打破するには──デル・テクノロジーズ×NVIDIAでPoCの主導権を取り戻す
エージェンティックAIの登場によって、開発者の役割を問い直されている。2026年7月16日に開催された、EnterpriseZine編集部主催のオンラインカンファレンス「IT Strategy Summit 2026」では、デル・テクノロジーズ AI ソリューションセールズ本部の保正氏が「AIがコードを書く時代に、開発者は何を設計すべきか」をテーマに、開発者をめぐる外部環境の変化を指摘した。キーワードはAIを「試す」から「回す」への転換。PoCにとどまらず事業の中で継続的に価値を生み出すには、コード実装だけでなくインフラ、データ、意思決定プロセスを含めた全体設計が不可欠になる。講演内容をもとに、AI時代に開発者が直面する課題と、それを乗り越えるための実行基盤やデータ設計の要点を整理する。
コードを書く価値が下がっている今、重要なのは“コードの外側”
AIの進化は、ソフトウェア開発の価値構造を根本から変えようとしている。従来は速くコードを書くことが評価軸だったが、今やプロンプトを入力すれば、テンプレート生成からテストコード、リファクタリング提案までをAIだけで行えるようになった。
「コードを書くこと自体の差別化価値は低くなっています。これからの開発者に問われるのは、書く速さではなく事業成果につながる仕組みを継続的に回す力です」と保氏は指摘する。求められるのは、個々のシステム実装ではなく、システム全体をどう動かし続けるかの設計であるという。
この変化を後押ししているのが、エージェンティックAIだ。エージェンティックAIはユーザーの依頼内容を解釈し、自律的に計画(Plan)、実行(Act)、観察(Observe)、参照(Retrieve)、ツール利用(Tool Use)といったステップを繰り返して(Repeat)自律的にタスクを完了させる。従来の一問一答型の生成AIとは異なり、業務を遂行する実行主体として振る舞う。
このようにAIが複数ステップのワークフローをこなすようになると、開発者が設計すべき対象は、モデル単体からエージェントの挙動全体へと広がる。ここで重要となるのが「コードの外側」の設計だ。AIがどの環境で、どのデータを使い、どのように意思決定へ接続されるのかを定義することが、成果を左右するといっても過言ではない。
コードの外側の設計には、どのモデルをどの規模で利用するかの「モデル選定」、ローカル・オンプレミス・クラウドといった「実行場所の設計」、どのデータをどのように安全に供給するかという「データ設計」がある。さらに、1成果あたりのコスト最適化を図るトークノミクス(Tokenomics)の考慮や、権限管理・監査を含むガバナンス設計、成果をどのように評価し改善につなげるかというループ設計が含まれる。
本番環境でAIを動かす際には、現実的な制約も多い。その代表がコストの問題だ。エージェンティックAIは目的達成のために複数回にわたってAPIを呼び出し、推論プロセスを重ねる。そのため、一問一答型の生成AIに比べてトークン消費量が増加する。
保氏はその一例として「個人でエージェントを構築し、複数のAPIやMCPサーバーを組み合わせた検証環境を運用したところ、翌月の従量課金が40万円に達しました」と明かした。このようなトークノミクスの課題に加え、企業データを外部に持ち出せない「データグラビティ(Data Gravity)」、権限管理や監査といった「ガバナンス」、PoCでは成立しても大規模運用で破綻する「評価・運用」の問題などがAI活用の障壁となる。
つまり、開発者に求められるのは、AIを場当たり的に運用することではなく、AIが継続的に価値を生み出すための条件を設計し、制御可能な形で組み込むことである。
「クラウドか、オンプレか」ではない 成熟度に応じた選択を
AIを業務に実装するとき、インフラはクラウドか、オンプレミスかのいずれかを選ぶものと語られがちだ。しかし保氏は、この前提自体を見直す必要があると指摘する。AI活用は単一の環境で完結するものではなく、段階と用途に応じて最適な配置を選び続けるべきものだからだ。
多くの企業は、迅速な立ち上げや拡張性を理由にクラウドからAI活用を開始する。PoCの段階では問題がなくても、本格的な業務展開に進むにつれ、従量課金によるコスト管理の難しさ、データ転送にともなう遅延や通信コスト、機密情報の取り扱いなどの制約が出てくることが少なくない。
デル・テクノロジーズ株式会社 AI ソリューションセールズ本部
AI ビジネス開発マネージャー / AI ソリューションズコンサルタント 保正氏
特に日本企業では、基幹システムや工場データ、顧客情報などの重要データがオンプレミスにとどまっているケースが多い。これらをAIのある場所へ移動させるには大きな負荷がともない、あまり現実的ではない。これはいわゆるデータグラビティの問題だ。
こうした前提に立てば、すべてをクラウドに集約せずに、データの所在や用途、求められる応答性能に応じて処理基盤を配置する必要がある。すなわち、クラウドとオンプレミスを組み合わせた「ハイブリッド前提のインフラ設計」を、段階的に構築していくことが現実解となる。
また、AI基盤は単一の構成で完成させるものではなく、活用の成熟度に応じて拡張、深化させる設計が求められる。保氏はこの進化プロセスを、4つのステージで整理した。
- Stage 1(Personal / Deskside):個人や少人数の開発者が手元の環境で試行錯誤を繰り返すフェーズだ。機密データを外に出さず、クラウドの従量課金を意識せずに反復速度を確保することが重視される
- Stage 2(Shared Team GPU):GPUリソースをチームで共有し、検証結果やエージェントの処理パターンを再利用可能な形で蓄積していく。個人最適からチーム最適への移行が進む段階である
- Stage 3(Department / Fine-tuning):部門単位での共通基盤として、推論に加えてモデルの微調整(ファインチューニング)や評価のループを継続的に運用する体制が求められる
- Stage 4(Enterprise / AI Factory):全社規模での本番運用を前提に、標準化や統制を効かせながら、継続的にAIを運用する堅牢な実行基盤へと発展する
重要なのは、自社がどのステージにあるかを見極め、次に進むべき段階を見据えてインフラを設計することだ。クラウドかオンプレミスかの二者択一ではなく、成熟度に応じて最適な配置を選び続けること。それが、AIを事業の中で持続的に機能させる前提となる。
PoCの主導権を取り戻す、デル・テクノロジーズ×NVIDIAのエージェント型AI環境
こうしたコードの外側の設計課題や段階的なインフラ変化に対応するのが、デル・テクノロジーズとNVIDIAが共同で展開するAIソリューション群だ。両社の取り組みは、PoCから事業成果への移行を支える統合基盤として位置づけられており、インフラ、ソフトウェア、導入支援までを一気通貫で提供する。デル・テクノロジーズの堅牢なインフラストラクチャーやデータ管理、導入支援サービスと、NVIDIAが誇る高性能GPUおよびフルスタックのAIソフトウェアが融合することで、企業のAI活用をエンドツーエンドで支えることができるという。
段階的設計の最初のステップとして威力を発揮するのが「Dell Deskside Agentic AI」だ。これは、ローカル環境で大規模言語モデルや自律型エージェントを安全に実行・構築・テストできる仕組みだ。NVIDIA GB10やGB300といった最高峰のコンピュートプラットフォームを組み込んだDell Pro MaxやDell Precisionシリーズという名称のワークステーションなどで構成され、NeMo、OpenClaw、OpenShellといったNVIDIAソフトウェアスタックが最初から搭載されている。
Deskside Agentic AIの最大の価値は、試行錯誤の主導権を開発者の手元に取り戻せることだ。パブリッククラウドのAPIを使う場合、トークン消費を気にしてプロンプト調整や複数ステップの実行をためらいがちだが、手元に専用環境があれば、従量課金の制約を気にせずに何度も試行できる。機密データやソースコードを外部に出さずに検証できる点も大きい。
デル・テクノロジーズの検証によると「パブリッククラウドAPI比で最大87%のコスト削減が見込め、最短3ヵ月で損益分岐点に達する」と保氏は説明する。単なる高性能PCではなく、開発者が自由に実験できる安全なサンドボックスを手元に置くことで、イノベーションの加速につながる。
全社展開の本番実装を支える「Dell AI Factory with NVIDIA」
ローカルで構築したエージェントや推論処理を、そのまま全社規模の本番運用へ拡張する実行基盤が「Dell AI Factory with NVIDIA(以下、AI Factory)」だ。クライアント端末からデータセンター、クラウドまでを一貫してつなぎ、段階的な展開に対応する。
AI Factoryの強みは、NVIDIA AI Enterprise、NIM、NeMo、Run:aiと、デル・テクノロジーズのサーバー、ストレージ、ネットワークが、事前検証済みの形で統合されていること。両社が共同で検証したエンタープライズ・レファレンス・アーキテクチャ(ERA)に準拠しているため、企業は複雑な環境構築に悩むことなく、承認済みのAIモデルを低遅延かつスケーラブルな環境で即座にデプロイできる。手元で作成したテンプレート(ブループリント)をそのままAI Factoryへ持ち込んで大規模展開したり、逆に本番環境で運用中のモデルを手元に持ち帰ってファインチューニングしたりといった、シームレスな相互運用が可能となる。
さらに、AIの「燃料」となるデータを整備し、供給する仕組みとして「Dell AI Data Platform with NVIDIA」が用意されている。企業の現場に散在する非構造化データやサイロ化された情報をそのままAIに入力しても、正しい成果は得られない。このプラットフォームは、PowerScaleやObjectScaleといったデル・テクノロジーズのエンタープライズストレージ上に、データストリーミング、ベクターデータベース、データオーケストレーションエンジンを統合したスタックを提供する。
これらにより社内に眠る膨大なデータを安全に整理・埋め込み・インデックス化し、AI-ReadyなデータとしてエージェントやRAGシステムへ継続的にパイプライン供給する役割を担う。データを取り込む層と、モデルを実行する層を分けて連携させることで、AIを継続的に回せる信頼性の高い運用基盤が成立する。
AI時代に開発者に求められるのは、「どう回すか」の全体設計
生成AIがコードを自動生成し、複雑なタスクをこなすエージェントへと進化した現在、ソフトウェア開発における競争力の源泉は明確に変化した。かつてのように「PoCを何件立ち上げたか」や「いかに早くコードを実装できたか」という試行の数や実装スピードでは、もはや差別化は生み出せない。
これからの時代に問われるのは、AIをどのデータと結びつけ、どのようなコスト構造とインフラ配置で動かし、安全かつ継続的に事業成果へつなげられるかという「回すための全体設計」である。
セッションの締めくくりとして、保氏は開発者に向けて次のように語った。
「AIがコードを書く時代において、開発者が設計すべきものはコードやプロンプトそのものだけではありません。AIをどのデータで、どこで動かし、どんなコストで、どう安全に運用し続けるかという『実行条件の全体像』を設計することです。次の企業の競争力は、AIを試した数ではなく、事業の中で回し続けられる仕組みを持てたかどうかで決まります」(保氏)
単なるコードの実装者にとどまらず、実行基盤、データ供給、経済性、ガバナンスまでを統合して捉えるアーキテクトとしての視点を持つこと。それこそが、AI時代を切り拓く開発者に求められる真の価値であり、デル・テクノロジーズとNVIDIAが提供するソリューション群は、その実装を後押しする基盤となる。
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提供:デル・テクノロジーズ株式会社
【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社
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