企業が利益を最大化する方法は、大きく3つある。売上を伸ばすか、将来に向けて大型の投資に打って出るか、あるいは支出を管理して無駄をなくすか、である。売上拡大や投資は景気や競争環境に左右されやすい一方、支出管理だけは自社の意思決定で完結し、削り出したコストはそのまま利益に直結する。支出をいかに自前の戦略としてコントロールするかに、企業の財務・経理・調達を担う担当者の課題がある。三菱重工が語った改革の取り組みを紹介する。
なぜいま、支出管理改革なのか?
「支出管理の領域は、100%自社でコントロールできる領域です」。2026年7月24日、東京で開かれたCoupaのイベント「Inspire World Tour Tokyo 2026」で同社代表取締役社長の反町浩一郎氏は、こう言い切った。
さらに反町氏は、最近のAIの進化がまさにこの領域に効いてきており、企業の利益に最も直結する分野こそAIによって大きく様変わりすると語った。支出を自前で戦略的に握ること。その実行力を高める鍵がAIであるということが、同氏の基本メッセージだ。
では、その「自前のコントロール」は、どうやって実現するのか。自社の支出データを一つにまとめ、現場を動かし、AIが効く土台をつくり切れるか。この日、その答えを最も具体的に示したのが、世界141社への展開を8年かけて成し遂げた三菱重工業(以下、三菱重工)の歩みである。
反町氏がこの支出管理の重要性を改めて語る背景には、欧米と日本の温度差がある。欧米企業は株式市場や企業買収といった競争にさらされ続け、支出管理への取り組みが早くから進んできたという。一方の日本企業は、基幹システムの老朽化や経営陣のコスト意識の違いもあって対応が後回しになりやすく、売上高1,000億円以上の企業でも全社的に取り組めているのは2〜3割程度にとどまるとCoupaはみている。
手つかずの領域がそれだけ残っているということは、AIを投じる伸びしろもまだ大きいということだ。華やかなAIの話題の陰に隠れやすい支出管理だが、利益への直結度で見れば投資対効果の高い分野だと反町氏は位置付ける。
Coupaは2006年にシリコンバレーで創業した支出管理専業のクラウドベンダーで、今年創業20周年を迎える。直接材・間接材の購買から一般経費、財務・トレジャリーまで、企業のあらゆる支出業務を単一のプラットフォームに統合する。導入企業は3,200社超、登録サプライヤーは1,000万社超、プラットフォーム上の累計取引額は10兆ドル(1,600兆円)に達する。買い手と売り手の取引データが集まり続けることで、価格やリスク、サプライチェーンの分析が精緻になり、それがまた新しい取引を呼び込む仕組みだ。
この事業基盤の説明とともに、反町氏はこう語った。
「私たちはもはやSaaSの会社ではありません。Agentic as a Serviceの会社です」。直近の「SaaS is Dead(SaaSは死んだ)」という問いかけへの応答とも言えるが、Coupa自体の今後の事業の再定義として脱SaaSを掲げ、エージェントによる支出管理を前面に押し出す宣言だった。
SaaS(Software as a Service)は、ソフトをクラウド経由で提供し、人が操作して業務を進めるモデルだ。これに対してAgentic as a Serviceは、人がソフトを操作するのではなく、AIエージェントが業務を遂行し、成果を届ける会社のあり方を指す。その土台にあるのが、20年かけて積み上げてきたデータの厚みだ。AIブームに乗じて後から参入してくる競合との違いも、ここにかかっている。
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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZine/AIdiverには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail ...
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