ガートナージャパン(以下、Gartner)は、「フィジカルAIに関するよくある10の誤解」を発表した。
フィジカルAIへの関心・認知が急速に拡大する中で、その意味や適用範囲には多くの誤解が見られるという。代表的な10の誤解は以下のとおりだとしている。
【誤解1】フィジカルAIは、生成AIやAIエージェントと同様、新しいAIソリューションの1つであり、既存の工場、インフラ、業務にAIやロボットを追加すればよい
フィジカルAIは、既存システムへの新しいソリューションや追加機能ではない。「フィジカルAIが入ったロボット」「フィジカルAIを搭載した自動車」といった表現が散見されるが、これはミスリーディングである。フィジカルAIという特定のAIモデルやソフトウェアが単体で存在するわけではなく、フィジカルAIとは、AI、センサ、制御、ロボティクス、シミュレーション、データ、IT/OTなどを組み合わせ、実世界を認識し、判断し、行動し、その結果から継続的に学習、改善するシステムのあり方を指すとのことだ。
したがって、フィジカルAIへの対応は「AIソリューションやAI機能を追加すること」ではなく、実世界を動かすシステムそのものを再設計し、継続的に進化できる構造へ変えていく取り組みとして捉える必要があると述べている。
【誤解2】フィジカルAIとは、ヒューマノイドやロボットそのものを指す
ヒューマノイドやロボットは代表的な実装形態だが、フィジカルAIには車両、ドローン、機械、設備、インフラなども対象に含まれる。フィジカルAIを特定のデバイスとしてではなく、実世界を認識・判断して行動するフライホイール・システムとして捉えることが重要だという。
【誤解3】フィジカルAIの中核モデルはドメイン特化型言語モデル(DSLM)である
ドメイン特化型言語モデル(DSLM:Domain-Specific Language Model)は言語モデルであり、人間の言語、業務知識、規則、文書などを扱うものである。人間や業務とフィジカルAIの間で意味を共有するレイヤとして利用できるが、物理世界の状態や変化を理解・予測し、具体的な行動につなげる中核モデルではない。フィジカルAIでは、World ModelやVLA(Vision-Language-Action)などのモデルが重要な役割を担う。World Modelは物理世界の状態や変化を理解・予測し、VLAは視覚情報や言語指示を具体的な行動へつなげる。こうしたモデルを組み合わせ、認識、予測、判断、行動を一連の仕組みとしてつなげることが重要とのことだ。
【誤解4】日本企業には長年蓄積した製造データや現場の暗黙知があるため、フィジカルAIでも自然と競争優位性を持つ
製造データや現場の暗黙知は、日本企業の重要な強みになり得るものの、それらを持っているだけで競争優位になるわけではないという。企業は、「今の工場や環境にAIを入れる」といった発想から離れ、フィジカルAIを前提に、工場、設備、業務プロセス、人と機械の役割分担そのものを再設計する必要があるとしている。
これは単なるIT投資ではなく、ロボット、センサ、エッジ基盤、大量のGPUからなるAIファクトリーやクラウドを含む計算基盤、AIモデル、データ、人材などにまたがる大きな投資判断をともなう。その上で、既存の製造データや現場の暗黙知を生かしながら、実行から新たなデータを生み、そのデータを学習、改善、再設計へつなげるフライホイールを継続的に回せる構造を作る必要があるとのことだ。
【誤解5】フィジカルAIは、自動車、製造、ロボットなど、物理製品を扱う企業だけのテーマである
適用領域は製造に限らず、物流、建設、小売、医療、エネルギー、農業、都市/社会インフラなど、物理世界との接点を持つ幅広い産業が対象になるとしている。
【誤解6】AIモデル、ロボット、センサ、データなど、フィジカルAIを構成する技術の1つで強みを持てば十分である
フィジカルAIは、AIモデル、センサ、データ、シミュレーション、制御、計算基盤、安全、物理システム、運用などが連携し、認識→予測・判断→行動→結果の取得という閉ループを形成して初めて成立する。単独レイヤーだけではフィジカルAIとしての競争力はつくれない。フィジカルAIを新しいシステム工学として捉え、技術スタック全体をエンド・ツー・エンドで設計することが重要だという。
【誤解7】日本の競争力や主権を確保するためには、AIモデル、GPU、クラウド、シミュレーション、ロボティクス・ソフトウェアまで国産化する必要がある
フィジカルAIの技術スタックは広いため、すべてを国内技術だけでそろえることは現実的ではない。世界の優れた技術を利用しながら、データ、制御、安全、運用、知的財産、代替可能性など、自社・国内で何を握るのかを明確にすることが肝要とのことだ。
【誤解8】高性能なフィジカルAIやデータ・フライホイールを一度構築すれば、その後は継続的に利用できる
フィジカルAIは、物理世界とAIを結び付け、センシング、判断、行動、学習を繰り返すフライホイールによって、継続的な改善や最適化を実現する仕組みである。一度完成させて終わるものではなく、実世界やシミュレーションから得られる結果を反映しながら、継続的に改善していく必要があるという。
【誤解9】実世界をリアルタイムに制御するため、フィジカルAIはオンプレミスやエッジだけで構築する必要がある
フィジカルAIでは、リアルタイム性、安全性、可用性、データレジデンシなどの要件から、工場や現場に近接したエッジ/オンプレミス基盤が重要となる。一方、World Modelを含む大規模学習、追加学習、シミュレーションなどは必ずしも現場近くで実行する必要はなく、クラウドや大規模な計算基盤も利用する。すなわち、フィジカルAIのアーキテクチャは、エッジ、オンプレミス、クラウドを組み合わせる分散型アーキテクチャとして設計・実装することが重要だとしている。
【誤解10】フィジカルAIが高度化すれば、人をなくし、工場や現場を完全無人化することが最終形になる
自動化率や自律度を最大化すること自体がフィジカルAIの目的ではない。人、AI、機械の役割を再設計し、より安全で人に優しい環境と、生産性・品質・柔軟性を同時に最適化することが重要だという。これからのNew Worldにおいて、真に競争力を向上したい企業は、完全無人化ではなく、People-Centricな全体最適を目指すべきとのことだ。
まずは対象領域を限定し、現場、デジタルツイン、World Model、制御、データ基盤までをつないだ最小の完成形を構築すべきだという。その上で対象を段階的に広げ、フライホイールを回せる状態へ発展させることが、フィジカルAIへの取り組みをうまくスタートするためのポイントだとしている。
一方、フィジカルAIへの取り組みには、World Model、ロボティクス、制御、シミュレーション、IT/OT、安全、データ、業務を横断し、実世界へ実装する高度な能力が求められる。こうした人材には、AIプラットフォームを駆使してビジネスプロセスそのものをアップデートし、意思決定、実装、改善のスピードを高め、事業の最前線における現場機動力を飛躍的に向上させるFDEのような人材も含まれるとのこと。企業は、自社の中核を担う高度プロフェッショナル人材を育成するための人材投資戦略のアップデートが急務になっているという。
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EnterpriseZine編集部(エンタープライズジン ヘンシュウブ)
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