米州・欧州・APAC・中東の約70社へ展開、141社への統合を実現
導入を始めた矢先にパンデミックが発生し、一旦は国内のシステム切り替えに軸足を移した。共通のERPを使っていた国内は導入がスムーズに進み、1年で約40社への導入を終え、2021年から集中購買を始めている。この過程で作業を細かく分解する「WBS(作業分解構成図)」を明確にし、特定の担当者に頼らない体制と、自分たちの手で導入を進められるチームの土台を築いた。
コロナ禍が明けた2022年頃から海外展開を再開したものの、既存のやり方を変えたくないという現地の抵抗や、「導入効果を先に証明してほしい」という声が根強く、現場レベルの説得には限界があった。そこで2023年、Coupaのグローバル展開を経営会議に諮り、全社導入を経営層の総意として承認を得て予算を確保している。トップダウンの後押しが加わったことで、2024年・2025年のグローバルロールアウトは一気に加速した。
運用面でも工夫があった。グローバル展開にあたってWBSを整え直し、プロジェクト全体の管理はコンサルタントの支援を受けながら、システムをつなぎ込む作業そのものはフィリピンのグループ会社を頼って自分たちの手で対応できる体制を整えた。フィリピンのメンバーを日本に招いて2〜3ヵ月かけてノウハウを伝え、現地に赴くことなく完全リモートで導入作業を進める体制を築いた。その結果、2年間で米州・欧州・APAC・中東の約70社への展開を一気に終え、141社への統合にこぎ着けた。
いまは141社すべての支出データを「Spend Guard」に通し、不適切支出の一次スクリーニングを行っている。全件を目視で確認するのは不可能なため、AIによる効率化が欠かせない、と岩松氏は位置付けた。データの統合が先にあり、そのうえでAIが効く。受賞に結び付いた不正検知も、8年かけて支出データを一つに集めた結果として立ち上がっている。
「新しいシステムを導入しようとすると、必ず抵抗勢力が現れる」と岩松氏は語る。ボトムアップで泥臭く説得を続けつつ、限界を感じたら早い段階でトップダウンの力を借りる「両面からのアプローチ」が重要だと述べ、すべてを外部任せにせず社内やグループ内のリソースを活用して内製化できる仕組みを作ることが、コストを抑えながらスピード感を持って展開する鍵になると付け加えた。
国内で築いた内製の土台、経営会議で得た後ろ盾、そしてフィリピンを含むグループ内の実行力。この3つがそろって初めて、141社への統合というゴールが見えてきた。
三菱重工がグローバル展開を経営会議に諮り、トップの決断と予算の後ろ盾を得たのは、テクノロジーの話というより、組織を動かすための意思決定そのものだった。その決断の先で初めて、「Spend Guard」のようなAIが全社の支出を横断して見られる状態が生まれている。請求書の照合やレシートの転記といった定型作業は、これからAIエージェントに任せられる範囲が広がるだろう。そのぶん人に求められる役割は、AIをどう業務に組み込むかという設計や、変わりたがらない現場との関係づくり、生まれた時間を戦略的な支出判断に使うことへと移っていく。
反町氏が語った「100%自社でコントロールできる」という支出管理の強みは、裏を返せば「自分たちの意思決定と実行力がすべてを決める」という重みでもある。支出を自前の戦略として握り、その実行にAIを据える──三菱重工の8年は、その道筋を泥臭く示してきた歩みといえる。
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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZine/AIdiverには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail ...
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