Clouderaは2026年8月20日、シンガポールにて年次カンファレンス「EVOLVE26」を開催。分散するマルチクラウドやオンプレミス環境において一貫したガバナンスを維持しながら、AIを大規模展開するためのモジュール型ハイブリッドデータプラットフォーム「Cloudera Anywhere Cloud」を発表した。
現在、多くの企業が生成AIや自律型AIの実証実験(PoC)を進める一方で、インフラの限界やデータガバナンス、膨大なコストの壁に直面し、本番運用への移行を断念、または延期せざるを得ない課題を抱えている。Clouderaはこうしたボトルネックを解消すべく、オンプレミスとクラウドの境界線をなくす解決策としてAnywhere Cloudを発表した。Anywhere Cloudは特定のインフラに依存せず、オンプレミス、パブリッククラウド、ソブリン環境、エッジなどの異なる環境において単一のコントロールプレーンから共通のデータファブリック「SDX」を通じてデータ管理・ガバナンスを一元化するプラットフォーム。コンテナ化技術によりコンピュートとストレージを分離した疎結合なモジュール構造を採用しており、インフラの違いを意識することなく同一のコードでどこにでも展開・運用できる特徴を持つ。なお、Anywhere Cloudは2026年11月30日に一般提供を開始する予定だという。
基調講演に登壇した最高製品責任者(CPO)のレオ・ブルニック(Leo Brunnick)氏は、「データの支配権、AIモデル、そして自律型AIを完全にコントロールできているだろうか」と問いかけ、インフラの限界に悩む企業の現状を指摘した。同社はデータが分散していても安全にAIを活用できる仕組みとして、強固な基盤を象徴する開発コード名「Kona」と、柔軟な新アーキテクチャを象徴する開発コード名「Maui」という二重プラットフォームアプローチを提示。安定稼働が最優先される既存システムを活かしつつ、日進月歩で進化するAI技術にも柔軟かつスピーディに対応できるようにする意図があるという。
(左から)Cloudera, Inc. 最高技術責任者(Chief Technology Officer) Sergio Gago(セルジオ・ガゴ)氏
最高製品責任者(Chief Product Officer) Leo Brunnick(レオ・ブルニック)氏
Konaに該当する既存の製品群「Cloudera 7.3.2」は、銀行の勘定系など停止が許されない大規模ワークロードを支えるために6年間の長期サポート(LTS)を提供する。オープンテーブル規格である「Apache Iceberg」に対応することで、データをコピーすることなくSnowflakeやDatabricksなどの他社ツールと安全に共有できる仮想データレイクを実現する。
既存の安定基盤を守るKonaの一方で、変化への即応性を追求するMauiと呼ばれる「Anywhere Cloud」について、ブルニック氏は「従来のオンプレミス基盤ではベアメタルからデータサービスが稼働するまでに平均60日を要していたが、Anywhere Cloudでは60分未満に短縮される」と説明し、環境構築の迅速性をアピールした。
欧州データセンターの障害を想定したAnywhere Cloudの実演デモでは、最高技術責任者(CTO)のセルジオ・ガゴ(Sergio Gago)氏の指揮のもと、専門AIエージェント群が影響調査と復旧プランを算出。ガゴ氏が承認すると、システムは分析エンジン一式を別クラウドへ再デプロイし、トラフィック切り替えまでを21分間で自動処理した。ガゴ氏は「一度書いたコードがどこにでも展開可能な、モジュール構造で疎結合なAnywhere Cloudだからこそ実現できたトラブル復旧だ」と語り、インフラ運用における新たなアプローチを提示した。
続いて登壇した最高経営責任者(CEO)のチャールズ・サンズベリー(Charles Sansbury)氏は、今回発表された技術の裏付けとして、同社がこれまで3年間にわたり、研究開発(R&D)とコンテナ化技術を持つTaikun社を含む3件の企業買収に総額10億米ドルの投資を行ってきたことを明らかにした。特にTaikun社のKubernetesコンテナ管理技術について、「当初は複雑なデータサービス環境のデプロイやインストール作業を容易にする目的で買収したが、顧客との対話を通じて、マルチクラウドやエアギャップ環境全体でコンピュート層とストレージ層を自在に制御するオーケストレーションプラットフォームでもあると気づいた」と話し、その技術を核として独自のデータガバナンスとAI運用のレイヤーを構築したと説明した。
この投資の背景として、サンズベリー氏は同社が実施した最新のグローバル調査レポート「AIアーキテクチャの大転換」の調査結果を提示。調査によると、アジア太平洋(APAC)地域の回答者の92%が、過去12ヵ月間にデータガバナンスやコンプライアンス、あるいは規制上の問題を理由にAIプロジェクトを延期または中止に追い込まれている実態が明らかになっている。また、63%の企業が、AIワークロードの少なくとも一部をパブリッククラウドから自社所有のオンプレミスやプライベートクラウドへ移行させているという。
サンズベリー氏は「調査を重ねるたびに、ワークロードやデータグラビティが自社所有のハードウェアに戻る傾向が明らかになった。大企業におけるデファクトの運用モデルは、必然的にハイブリッドモデルになる」と語り、ハイブリッド環境の重要性を強調する。データを自社環境の外に移動させることなくマルチクラウドと同一の操作性を提供するAnywhere Cloudは、データ保護規制に対応する「ソブリンAI」を構築する上で実用的なオペレーティングシステムになるとした。
あわせて同社は、技術インフラの提供に留まらず、直接的なビジネス価値とユースケースの創出へと舵を切る方針を示した。サンズベリー氏は「これからは単なる技術基盤の提供に留まらず、製造業や金融業等で成果を挙げた具体的なユースケースを『レシピカード』という方向性で幅広く共有し、データから測定可能なビジネス価値を直接創出するフェーズへと移行する」との展望を明かした。このレシピカードは、不正検知・防止や製造欠陥の検知、非テキストデータを用いるフィジカルAIなど、各業界の実践例をパッケージ化し、導入の手順を整理する取り組みだ。
これに加え、企業が独自のセキュリティ要件を満たした状態でApache Spark 3からSpark 4へのシームレスな移行、さらにはClickHouseやPostgreSQLなどのサードパーティ製データベースを「Anywhere Cloud Marketplace」から統合できる環境も整えているという。一連のロードマップにおいて同社は、既存のCloudera Data Platformの価値を維持しながら、Anywhere Cloudへと段階的にシステムを移行できる環境を提供している。
サンズベリー氏が「クラウドはテクノロジーの利用形態を変えたが、データがどこに存在すべきかという根本的な課題までは解決しなかった。AIの台頭により、データをいかに最適に活用するかが一層重要になっている」と語るように、Clouderaは自社へのベンダーロックインを排除し、企業が自由にテクノロジーを選び取る環境を提供する。11月30日の一般提供に向けて、企業の競争優位性を支えるため、データアーキテクチャ改革を今後も支援していく姿勢を示して締めくくった。
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小山 奨太(編集部)(コヤマ ショウタ)
EnterpriseZine編集部所属。製造小売業の情報システム部門で運用保守、DX推進などを経験。
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