愛媛県はIT人材10,000人育成へ──県副知事や経産省、JAWS-UG愛媛メンバーらが取り組み語る
愛媛はみかんだけじゃない!DX推進の熱量が経営層から学生にまで及ぶ
「現場を変えない」AI活用 現場の暗黙知をどう引き出した?
実際にAIを導入する際は、どのような壁に衝突し、最終的にどういった成果を出せたのか。パネルディスカッションでは、AWSの大村幸敬氏をファシリテーターに、種田氏と加藤氏が語り合った。
大村氏:種田さんは、プロジェクト開始当初から「現場のやり方を変えない」と強くおっしゃっていました。一般的にDXは業務プロセスの抜本改革をともないますが、なぜあえて「変えない」ことにこだわったのでしょうか?
種田氏:当社の職人たちは、60年の歴史の中で自分たちの仕事に絶対的なプライドをもっています。彼らにとって、自分たちの目は機械よりも正確だという自負がある。そこに「明日からこのシステムに従ってくれ」と押しつければ、彼らは自分の居場所が奪われる“敵”が来たと感じ、心理的な障壁を築いてしまいます。それでは、DXは100%失敗するでしょう。
だから私は、職人たちの今の作業スタイルを尊重したかった。検査台の上にカメラを置くだけ。車がETCを通過するように、製品を置けばパッと判定が出る。作業の手を止めず、むしろ加速させる。AIは人を置き換えるものではなく、人の能力を増幅する“相棒”なんだと。このメッセージを、仕組みそのもので伝える必要がありました。
加藤氏:種田さんのこだわりが、取り組みを支援する私たちにとっても大きな指針になりました。AIが100%完璧である必要はないんです。職人が判断に迷うグレーゾーンをAIが事前に絞り込み、最後は人間が自信をもって判断する。この増幅の設計思想こそが、現場の定着を生みました。実は、IT側がやりがちなミスは、現場の職人にデータ入力という新しい仕事を増やしてしまうことなんです。私たちはそれを徹底的に避けました。
大村氏:加藤さんは、現場の暗黙知をどう引き出したのですか?
加藤氏:職人さんに「どうやって判定していますか?」と聞いても、最初は「見ればわかる」という答えしか返ってきません。そこで私たちは、シミュレーション画面で複数のパターンを見せ、「AとB、どちらが気持ちいいですか?」という聞き方をしました。すると、「この中心点の取り方はBのほうが正しい」といった具体的なこだわりが溢れ出してきたんです。これが暗黙知が言語化される瞬間でした。
種田氏:加藤さんはITの専門家でありながら、ネジの締め方や図面の見方がわかる人でした。だからこそ、職人たちも心を開いた。この信頼関係がなければ、AIに当社の“魂”を教え込むことはできなかったでしょう。
AIを導入して驚いたのは、現場のリーダーたちの意識が変わったことです。最初は懐疑的だった彼らが、AIの判定精度を見るうちに「もっとここを学ばせよう」「この素材ならどうだ」と、自ら改善を提案しはじめた。AIという相棒を得たことで、彼らのプライドがさらに高い次元へと引き上げられたんです。
加藤氏:プロジェクトの核心は、熟練工の言葉にできない感覚をどうデータ化するかという点にありました。たとえば、パッキンの中心点をどこに取るか。職人さんは無意識に瞬時に判断していますが、AIにとっては非常に高度な計算です。私たちは彼らの視線を追跡し、どのエッジを基準にしているのかを徹底的に分析しました。シミュレーションで「この歪みは許容範囲か」と一歩ずつ確認するプロセスは、まさに職人の頭の中をデジタルのコードに翻訳する作業でした。
種田氏:また、このプロジェクトの成果の1つに、ダイバーシティの実現があります。当社には、弱視という視力ハンデをもつ社員が在籍しています。彼はこれまで、仕上げ業務はできても、精密な外観検査は難しかった。しかし、AIが異常箇所を特定し、モニター上で強調表示することで、健常者と同等、あるいはそれ以上の精度で検査を行えるようになりました。 AIによってハンデがなくなることは、単なる効率化ではなく人間としての働きがいの変革です。この成功体験が、社内の文化をアップデートしました。
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