AI普及の阻害要因「トークノミクスとGPU飢餓」の打開策──データ移動ゼロで実現するROI創出とTCO削減
「EVOLVE26」レポート:AbbVieとExxonMobilはどうやって成果に結びつけたのか?
生成AIの企業活用が本格化する中、市場の主戦場はAIモデルのトレーニングから、日常業務のコンテキスト(文脈)を活かす「推論」や「Applied AI(応用AI)」の現場適用へと急シフトしている。 しかし、AIエージェントの利用拡大にともないトークン消費コスト(トークノミクス)が膨れ上がることや、パブリッククラウドへ大量データを転送する際に発生する費用(エグレスコスト)、さらには高度なAI人材の不足が、多くの企業においてROI向上を阻む大きな壁となっている。Clouderaはシンガポールで開催した年次カンファレンス「EVOLVE26」において、データを外部に移動させない「Zero Data Egress」構想と、統合アーキテクチャ「Cloud AI Factory」を提示。さらに、Applied AI部門による「Forward Deployed Engineer(FDE」の無償伴走支援を打ち出すとともに、製薬大手AbbVieによるナレッジプラットフォーム構築や、エネルギー大手ExxonMobilのペタバイト級データを活かしたフィジカルAI事例を通じて、実効性あるビジネス価値創出の全貌を明かした。
AI普及の阻害要因「トークノミクス」と「GPU飢餓」の打開策
基調講演に登壇したClouderaの最高事業責任者(CBO)兼 Applied AI事業部長のアバース・リッキー(Abhas Ricky)氏は、「2021年から2025年まではモデルの訓練が中心だったが、2026年以降はAI支出の78%が推論に向かう」と語り、市場の構造変化を指摘した。
企業内で複数のAIエージェントが複雑に連携するようになると、1つの業務プロセスを実行するだけでも数十のツールやAIモデルが連続して呼び出されることは珍しくない。その結果、トークン消費量と利用コストが爆発的に膨れ上がる「トークノミクス」の課題が表面化する。パブリッククラウドへデータを送信して推論を行う従来の運用では、莫大なデータ転送料(エグレスコスト)も発生。さらに、通信遅延によってデータ供給が追いつかず、高価なGPU計算リソースが処理待ちの状態に陥る「GPU飢餓(GPU Starvation)」を招き、企業のROIを損なってしまうのが実情だ。
個別のモデル開発から、統制された統合プラットフォームへの移行
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この問題に対し、リッキー氏はデータを社外に出さずに推論を実行する「Zero Data Egress」と、統合リファレンスアーキテクチャ「Cloud AI Factory」を提示した。同フレームワークは、以下の5つの要素で構成されている。
5つの要素で構成される「Cloud AI Factory」
- Cloud:ハイブリッド/マルチクラウド環境に対応するインフラ基盤
- Context:企業固有のデータを安全に紐付けるコンテキスト基盤
- Sovereign Inference:自社境界内で安全に推論を実行する環境(ソブリン推論)
- AI Marketplace:多様なAIモデルやツールを迅速に選択・デプロイできるエコシステム
- Forward Deployed Engineering:現場での実装と定着を直接支援するエンジニア組織
インフラからOpen Data Lakehouse、推論基盤、FDE伴走支援までを網羅する統合技術スタック
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「Cloudera AI Factory」を構成する一貫性・文脈・制御・選択・実行力の5つの柱
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リッキー氏は「我々は、エンタープライズAIアプリをあらゆる環境で、より速く、より安く構築できるソリューションを提供する」と強調。VAST Dataなどの超高速AIストレージパートナーと連携することでデータ転送のボトルネックであるGPU飢餓を回避し、トークン関連コストを70%〜85%削減するTCO(総所有コスト)の最適化モデルを示した。
データを移動させず、データのある場所へ計算リソースを配置する「Zero Data Egress」の概念
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パブリッククラウドAPI利用に対し、自社専用環境の活用で推論TCOを最大85%削減できる試算
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さらに、Clouderaはこのテクノロジーを企業現場での成果に結びつけるため、「Applied AI」部門による強力な伴走支援体制を打ち出した。
日本や韓国、シンガポール、オーストラリア、インドをはじめとするアジア太平洋(APAC)各地域において、フルスタックの機械学習エンジニアやデータサイエンティスト、そして「Forward Deployed Engineer(FDE:前線配備エンジニア)」で構成される専門チームを順次編成している。
FDEは、遠隔からの一般的な製品サポートにとどまらない。顧客の事業現場に直接深く入り込み、現場のドメイン専門家と同じ目線で課題を分析しながら、実用的なプロトタイプや再現可能なデモ環境を直接構築する役割を担うという。
リッキー氏は「我々は競合他社とは異なり、このApplied AIチームによる伴走支援を、最も戦略的なお客様に対して当面は『無償の投資』として提供する」と表明した。単なる製品ライセンスの提供にとどまらず、現場との信頼構築まで伴走することで、多くの企業が苦しむ「PoCの壁」を確実に突破させる姿勢を示す。
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小山 奨太(編集部)(コヤマ ショウタ)
EnterpriseZine編集部所属。製造小売業の情報システム部門で運用保守、DX推進などを経験。
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