AI普及の阻害要因「トークノミクスとGPU飢餓」の打開策──データ移動ゼロで実現するROI創出とTCO削減
「EVOLVE26」レポート:AbbVieとExxonMobilはどうやって成果に結びつけたのか?
グローバル企業に学ぶ「データ主導型AI戦略」
【AbbVie】270以上のデータ統合とナレッジプラットフォーム構築
このApplied AIおよび推論最適化のアプローチを現場で実践するのが、ゲストとして登壇した製薬大手AbbVieの最高AIプロダクトオーナー、ブライアン・マーティン(Brian Martin)氏だ。
同社は創薬R&Dにおけるデータのサイロ化を打破するため、270以上の社内外データソースを統合。ナレッジグラフを中心とした包括的なナレッジプラットフォームを構築した。
マーティン氏は、事業におけるAI活用の価値を以下の3つの軸で評価していると説明する。
- Operational(効率性):業務プロセスの自動化とスピードアップ
- Analytical(予測精度):データに基づく意思決定と創薬研究の精度向上
- Experiential(ユーザー体験):研究者や社員の検索性・利用体験の革新
創薬プロセスの複雑なコンテキストをAIに統合的に理解させることで、研究者が求める高度な情報検索や予測分析を加速させたという。
また、マーティン氏は自社環境で推論を回すメリットを「太陽光パネルによる自家発電」に例えて次のように語った。
「社内オンプレミス環境で自前のトークンモデル(推論環境)を稼働させることは、外部から電力を買い続けるのではなく、ベースラインの電力コストを抑える自家発電と同じだ。これこそがTCO削減の大きな鍵になる」(マーティン氏)
データを自社環境内にとどめて安全に推論を回す「プライベート/ソブリンAI」が、セキュリティ面だけでなくコスト面においても有効であることを強調した。
さらに、マーティン氏はAI導入における本質的な課題について次のように強調した。
「エンタープライズAIにおける最大の障害は、技術そのものではなく『文化』であり『人』だ。最新技術を現場のドメインの中に持ち込み、現場との信頼関係を築いた上でデプロイできる人材が不可欠になる」(マーティン氏)
どれほど優れたデータ基盤や最新のAIモデルを揃えても、研究者や現場の専門家がそのテクノロジーを信頼し、日常の業務プロセスに組み込まなければビジネス価値は生まれない。単なるデータ集積を超えて、文脈を理解するナレッジプラットフォームへと昇華させ、現場の信頼を獲得することこそが、創薬研究の加速とROI創出に直結しているのだ。
【ExxonMobil】環境構築時間を「6時間以上」から「わずか65分」へ
AIの適用範囲は、社内文書やチャットなどのテキストデータにとどまらない。基調講演では、Clouderaが管理する30EB以上のデータ基盤と、石油・エネルギー大手ExxonMobilによる「Cloudera Anywhere Cloud」のデザインパートナーシップの成果が明かされた。
登壇したExxonMobilのエンタープライズシステムアーキテクトであるモニカ・トゥラシ(Monika Thulasi)氏、アンヴェシュ・コリペラ(Anvesh Koripella)氏、およびCloudera Applied AI部門のジェイク・ベンストン(Jake Bengston)氏は、プラントの各種センサーデータ、ガス流量計、衛星画像、年間20万枚におよぶ現場画像といった非テキストデータを活用するフィジカルAIのリアルな課題と解決策を語った。
世界各地の油田や製油所に点在するペタバイト級の産業データをパブリッククラウドへ転送することは、莫大な転送コストとネットワーク通信遅延を引き起こすため、現実的ではない。
コリペラ氏は、「従来、データサービス環境の構築には6時間以上かかっていた。しかしAnywhere Cloudの導入により、ワンクリックでわずか65分で4つのデータ・AI体験(分析・処理環境)を完了させることができた」と、環境構築の高速化を評価した。
(左から)Exxon Mobil Corporation アンヴェシュ・コリペラ(Anvesh Koripella)氏、モニカ・トゥラシ(Monika Thulasi)氏、Cloudera, Inc. Applied AI部門 ジェイク・ベンストン(Jake Bengston)氏
トゥラシ氏は、プラントの画像データをリアルタイム解析して機器の予兆保全や異常検出を行い、ダッシュボードへ通知する監視システムの活用例を紹介した。
「AIが一次解析や原因分析、さらには解決策の提案まで自動で行うことで、現場のエンジニアは日々のルーチン監視運用から解放され、より高付加価値な業務へ集中できるようになった」とその効果を語る。
さらにベンストン氏も、エッジ端末や現場近くで小規模モデルを稼働させるフィジカルAIの重要性に触れ、「データはもはや業務の副産物ではなく、競争力を生む戦略的資産だ。データを発生場所に置いたまま、オンプレミスのGPUインフラ等でコストを制御しながら推論を回すハイブリッド環境が不可欠になる」と説明した。
テキスト処理を超えたフィジカルAIの世界において、クラウドネイティブな俊敏性と厳格なデータ統制を両立させるCloudera Anywhere Cloudが、厳しい産業現場のデジタル変革を牽引している実態が示された。
この記事は参考になりましたか?
- EnterpriseZine Press連載記事一覧
-
- AI普及の阻害要因「トークノミクスとGPU飢餓」の打開策──データ移動ゼロで実現するROI...
- Colt、東京・大阪間に低遅延/大容量の“第3のルート” ハイパースケーラーや金融が待ち望...
- IFS、産業現場の生産性向上へ切り札「IFS Intelligence」投入 その効果は【...
- この記事の著者
-
小山 奨太(編集部)(コヤマ ショウタ)
EnterpriseZine編集部所属。製造小売業の情報システム部門で運用保守、DX推進などを経験。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア

