SCS評価制度に欠かせない「4つの管理サイクル」 評価結果を実務に組み込み、事業損失を防ぐために
第2回:SCS評価結果を企業価値に変える管理の仕組み
評価結果を経営管理へ組み込む「4つの実務プロセス」
1. 評価結果と対策状況の変化を把握する
まずは、評価で判明した不備や改善課題を管理対象として明確にし、その後の変化を継続的に把握することが重要だ。自社においては、組織体制や取引先管理、IT基盤の防御・検知、インシデント対応の変化を確認する。委託元であれば、重要な取引先の取得段階や改善状況も把握し、委託先には取引上必要な段階を示す。
A社では、自社の評価結果と改善課題を四半期ごとに確認することとした。重大な管理策の不備は、速やかに報告する。期限を超過した改善課題も報告対象とする。重要取引先には、取得段階と改善状況の確認を求める。
2. 自社への影響を評価し、重要な事項を経営層へ報告する
次に、把握した不備を要求事項への未対応として終わらせず、自社の事業影響に変換することが必要だ。重要な製品・サービスの供給停止、機密情報の漏えい・改ざん、重要システムへの侵入につながる可能性に加え、代替手段の有無や復旧時間を評価する。その上で、許容できる影響の範囲や追加投資など、経営判断が必要な事項に絞って報告することも欠かせない。
A社では、重要サービスの供給停止、機密情報の漏えい、取引先とのネットワーク接続経由の侵入につながる不備も対象とした。顧客から受領した図面等に含まれる機密情報も対象となることをあらためて周知。改善期限の大幅な超過も、経営へ報告することとした。また、報告時には定型フォーマットを利用し、該当するSCS評価制度の要求事項と評価結果、想定するリスク、自社への影響、現行対策、改善案、必要な費用と期間を記載する。これにより、経営層は共通の形式で対応の優先度を比較しやすくなった。
3. 経営層は対応方針と資源配分を決め、現場が実行する
経営層は、事業影響と必要な対策を比較し、許容するリスク、優先して是正する課題、投入する予算・人員を決定することが求められる。現場は、決定された方針に基づいて担当部門や期限、完了条件を明確にして実行に移していく。
A社では、重要取引先のアクセス管理に不備が判明し、取引先とのネットワーク接続経由の侵入リスクが高いと評価。経営会議では、接続制限と改善対策を優先することとして、担当部門と期限も決定した。資源配分は、要求事項への対応を確実にするための手段である。やみくもに投資するのではなく、評価結果と自社への影響を基に優先する改善を決めることが肝要だ。
4. 対策の有効性を確認して見直す
最後に、対策を実施した事実だけでなく、想定したリスクを実際に低減できたかを確認する。運用記録、技術検証、訓練などで有効性を確認して、未解決事項や環境変化を次の評価、方針、資源配分へ反映していく。
A社では、改善課題の完了状況を四半期ごとに確認することとした。インシデント対応は、訓練で実行可能性を確認。技術的な対策は、年1回検証する。未解決の不備は、期限と責任者を見直す。また、経営会議では、重大な不備と改善の進捗を定期的に確認する。取引先の対策状況に変化があれば、必要な段階や確認方法を見直す。確認・見直しの結果は、自社の対策と取引先管理に反映。評価結果、改善状況、インシデント対応の記録を蓄積し、次回の評価や取引先管理に活用することが重要だ。SCS評価制度における★取得の段階と改善状況は、委託元への説明にも用いる。
管理サイクルを企業価値向上につなげる道筋
A社では、これら4つのプロセスをつなぐことで、重要取引先におけるアクセス管理上の不備が単なる評価上の課題にとどまらず、取引先とのネットワーク接続経由での侵入・事業停止につながり得ると判断。これを経営課題として捉えなおした。その結果、接続制限と改善対策を優先しながら担当部門、期限、確認方法までを決定できた。
4つのプロセスによる管理サイクルがもたらす第一の価値は、「事業損失の回避・抑制」である。自社と取引先の弱点を早期に捉え、事業への影響が顕在化する前に対応することで、供給停止、情報漏えい、不正侵入による売上機会の喪失、復旧費用、信用低下を抑えられる。
第二の価値は、経営資源の配分精度の向上だ。評価上の不備を事業影響に置き換えて比較することで、すべての課題へ一律に対応するのではなく、企業価値への影響が大きい領域へ予算と人員を重点配分できる。これにより、セキュリティ投資をコストではなく、事業を守るための選択として説明しやすくなるだろう。
第三の価値は、取引継続に必要な“信頼の強化”である。共通基準に基づく評価結果に加え、改善状況と管理サイクルを客観的に示すことで、委託元と委託先の対話を具体化できる。説明の負荷を抑えながら、自社がリスクを把握し、判断し、改善していることを示せるため、既存取引の維持、新たな取引機会の創出に寄与する可能性がある。
社長:わが社も評価で見つかった不備を報告するだけでなく、事業への影響を踏まえて、何を優先するか判断できるようになったね。
CISO(最高情報セキュリティ責任者):はい。今回は、取引先のアクセス管理の不備を侵入や事業停止につながるリスクとして整理し、接続制限と改善対策の判断につなげました。ただし、対策を実施して終わりではありません。有効性を確認し、残る課題を次の判断に反映します。
事業部門責任者:執行現場としては、継続的な改善活動の推進を通じて実効性のみならず、効率性も視野に入れた管理活動を推進していきたいと考えています。
社長:これからが本番だね。経営としてもこの制度をうまく活用していきましょう。
このように、SCS評価制度を企業価値向上につなげることは、★の取得そのものを価値とみなすことではない。評価結果を起点に、事業損失を抑え、経営資源をより適切に配分し、取引先からの信頼を高めるまでの管理を継続することである。
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- この記事の著者
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酒井 慎(サカイ シン)
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 リスク・コンサルティング アソシエートパートナー金融機関向け決済ネットワークの企画・開発業務を経験後、IT戦略、ITガバナンス、サイバーセキュリティ領域を中心としたコンサルティングに従事。FinTech分野におけるリスク管理や業界標準策定にも携わる...
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多田 優里(タダ ユリ)
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 リスク・コンサルティング シニアマネージャーSIerにてグループウェアをはじめとするインフラ・アプリケーションの設計、開発、運用保守およびプロジェクトマネジメントに約15年従事。その後、クラウドおよびセキュリティコンサルタントとして、クラウド戦略策...
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