世界中で進行しつつあるSmarter Planetの取り組み
Smarter Planetでは具体的にどのような取り組みを行っているのでしょうか?
たとえば、水資源問題にフォーカスした「Smarter Water」では、監視システムによる米国ハドソン川の環境モニタリングを行っていますし、アイルランドのガルウェイ湾全域ではセンサーを配備して海洋モニタリングシステムを整えました。ここでは、先ほど説明したストリーム・コンピューティングが活用されています。
また、ビル管理にフォーカスした「Smarter Building」や、交通問題の解決を図る「Smarter Traffic」など、さまざまな社会問題領域に対する取り組みを進めていて、海外では既に多くの事例が生まれています。また日本においても、まだ数は少ないものの、実証実験で大きな成果を上げる事例が出てきています。
ここでは、Tivoliのようなコンソール画面が写っていますね。こうしてみると、システムの運用センターをあまり変わらないようにも見えます。
いえいえ、一口に再生可能エネルギーで全てを賄うといっても簡単なことではありません。太陽光発電は日によって発電量が上下する可能性もありますし、都市の電力使用量が急に跳ね上がるようなこともあり得ます。そこで、先ほど説明した「コンポーネント化」と「動的なワークロードを吸収するための組み換え」の仕組みが必要になるのです。
都市設計の段階で、ビル管理、交通管理、エネルギー管理といった物理的な機能をITとの融合した形でコンポーネント化しておく。ITを使って各要素を接続しておくことで、例えばエネルギーのリソースが不足するような場合には各施設への配電を調整したり、相対的に優先度の低いサービスについて提供内容を一時的に制限するなどして電力使用量を削減するようなことが可能になります。
そのためには、動的なワークロードに即座に対応してコンポーネントの自律的な組み替えを可能にするインフラが必要になります。われわれはそれを「Dynamic Infrastructure」と呼んでいますが、それこそがクラウド・コンピューティングの本質です。
なるほど。状況に応じて設備やソフトウェアの組み替えを可能にするためのコンポーネント化。人の手を介することなく、状況に応じてリアルタイムにコンポーネントを組みかえる自律制御の仕組み。それらを支えるための柔軟なリソース基盤としてのクラウド。このようなものをITの立場として提供するということですね。
ちなみにコンポーネント化には組み替えだけではなく再利用というメリットもあります。例えば、IBMはエネルギー問題一般に対する取り組みを「Smarter Energy」と名付けて、世界中の約50ヶ所以上でスマートグリッドのプロジェクトを推進しています。スマートグリッドというと、官民さまざまなステークホルダーが入り乱れる、複雑な大規模プロジェクトという印象があると思います。しかし、実際のプロジェクトでは約10カ月で戦略を策定し、その後わずか約6カ月でシステムのリリースにこぎつけています。
これは、まさにコンポーネント化によるメリットです。再利用可能なコンポーネントがあれば、ゼロからスクラッチで開発するより工期もコストもずっと削減できる。それはシステムだけでなく、物理的な設備でも同じです。奇しくも、建設などの分野でもコンポーネント化の重要性が注目を集めているようで、SOAが出てきたときに議論された、「再利用できる」「コストを抑えられる」「品質が安定する」「新しい価値をダイナミックに組み上げられる」といったITのアイディアが、ここで活かされているわけです。
ITが蓄積してきた技術やノウハウが物理世界で求められているものだというのは面白いですね。