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クラウド時代のIT戦略とミドルウェア(AD)

IT部門がミドルウェアのことを考える時代は終わった

日本IBM WebSphere事業部第一クライアント・テクニカル・プロフェッショナルズ 部長 小島賢二氏

システムを開発・運用する上でボトルネックになりがちなのが環境構築だ。本番環境だけでなく開発環境、テスト環境、ステージング環境と、さまざまなインフラを整えるための「見えないコスト」は、情報システム部門に多大な負担を強いている。IBMではプライベート・クラウドがこうした課題を解決するとの考えの下、新たに「IBM Workload Deployer」というアプライアンス製品の出荷を開始した。これは一体どのようなメリットをユーザーにもたらすものなのか、日本IBMのWebSphere事業部第一クライアント・テクニカル・プロフェッショナルズ 部長 小島賢二氏に話を聞いた。

サーバー仮想化だけではクラウドへの道は開けない

日本IBM WebSphere事業部第一クライアント・テクニカル・プロフェッショナルズ 部長 小島賢二氏
日本IBM WebSphere事業部
第一クライアント・テクニカル・プロフェッショナルズ
部長 小島賢二氏

――IT部門がインフラとミドルウェアを組み合わせる自由度は「権利からコストに変わった」との考えの下、ミドルウェア以下のレイヤーを専門機能に特化したアプライアンスとして提供することで、ユーザー企業がよりビジネスに近い領域に注力できる環境を整えていくというIBMとしての方針を第1回のインタビューでは伺いました。その端的な例が、先日発表された「Workload Deployer」だと思います。まずは、その概要についてご説明下さい。

 製品名からお気付きになる方もいらっしゃるかもしれませんが、先日発表したIBM Workload Deployerには、末尾に「V3.0」というバージョン番号が付いています。実は同製品は、2009年から「IBM WebSphere CloudBurst Appliance」という名称で提供されてきましたが、今回のバージョン3.0からは「IBM Workload Deployer」に名前を変えて出荷することになりました。

 IBM Workload Deployerは、WebSphere CloudBurst Applianceの機能に加えて、システムインフラを意識することなく、WebアプリケーションやDBアプリケーションといったアプリケーションの種別を意味する「ワークロード」の単位で、仮想化環境上にクラウドを実現するアプライアンス製品です。

 よく誤解があるのですが、IBM Workload Deployerはあくまで仮想化環境上にクラウドを実現する為のエンジンですので、このアプライアンス上でアプリケーションが稼働したり、エンドユーザーからのリクエストがアプライアンス上を行き来したりすることはありません。あくまでアプリケーションが稼働するシステムの実体は、IBM Workload Deployerの配置先となる仮想化環境上のクラウドとなります。

 IBM Workload Deployerは、仮想化環境上の各種システムリソース、例えば、メモリー、CPU、ネットワーク、ディスク、そしてミドルウェアをも共有化し、真のプライベート・クラウドを実現できる製品と言い換えてもいいかもしれません。製品名を変更した理由はいろいろあるのですが、プライベート・クラウドを実現するための製品なのですから、IBMの中の一つのミドルウェアのブランド名である「WebSphere」はもう製品名に冠する必要はないだろうという判断があったこともあります。

 アプライアンスの筺体の色も、WebSphereのブランド・カラーである紫から黒に変更したのも、同様の理由です。IBM Workload Deployerは完全に新しい製品として登場したのではなく、従来製品の豊富な実績と機能を踏まえ、新たにワークロードによる配置という改良を加えたバージョンアップというふうに理解いただければと思います。

――なるほど。では、今回プライベート・クラウドを実現するための新製品を新たにリリースした背景について、もう少し詳しく教えていただければと思います。IBM Workload Deployerは、具体的にはどのようなビジネスニーズに応えるのでしょうか?

 昨今、情報システムにおける効率的なリソース活用の仕組みとして、仮想化やクラウドが注目されています。これらは、システム環境を調達するために必要な期間の短縮、負荷に応じた柔軟なリソースの拡張・収縮、それに伴うコスト削減などの文脈で見れば、これまでのITインフラにおける設計、構築、運用の常識を覆すほどの大きなインパクトがある技術です。

 実際に仮想化やクラウドを導入・運用する形態としては、サービスプロバイダーが提供するパブリック・クラウドのサービスを利用するケースもあれば、自社のインフラを仮想化したり、プライベート・クラウドを構築したりといったケースもあるでしょう。いずれにせよ、既に仮想化・クラウドにかかわる取り組みをされている企業は少なくないと思います。

 しかし、インフラ調達期間の短縮や、柔軟なリソース拡張・収縮といったクラウドの恩恵にあずかるためには、単純に自社のサーバーを仮想化するだけでは不十分です。そのことは、既にサーバーの仮想化を進められている方であれば、よくご存じだと思います。IBMでは、クラウドのインフラが備えるべき要素、言い換えればクラウドとしてのメリットを提供するために必要な要素を3つ定義しています。

 それが「仮想化」「標準化」「自動化」です。1つ目の仮想化に関しては、物理的なハードウェアからシステムリソースを分離して管理できるメリットを、既に多くの方が理解されているかと思います。ただ、仮想化だけで終わってしまうと、クラウドのメリットを十分に享受するのは現実的には難しく、そのために「標準化」と「自動化」が必要になってくるのです。

――確かに近年では、単純にサーバーを仮想化しただけでは、システム構築および運用効率が劇的に向上するわけではないということが広く認識されてきました。

 そうですね。企業システムの場合、たとえ小規模であっても複数のサーバーから構成されることがほとんどでしょう。そして、アプリケーションは、データベース、メッセージング・サービス、ディレクトリー・サービス、非同期メッセージング・サービスなどのミドルウェアが提供する複数種類のAPIを使用して開発されます。

 つまり複数のサーバーとミドルウェアが連携して、はじめて企業システムにおけるアプリケーションを実現できるのです。こうした環境をプライベート・クラウドで実現するとなると、単純なサーバーの仮想化だけでは無理で、複数の仮想マシン群におけるミドルウェア特有の設計を考慮し、クラウド環境をデザインする必要が出てきます。

 多くの企業システムの開発および構築プロジェクトでは、通常、共通IT基盤設計・構築と称されるタスクがあり、この中で複数サーバーのトポロジーや、各種ミドルウェアの設定に関する標準化を行っています。単純にサーバーを仮想化しているだけでは、結局、このタスクが必要になるのです。クラウド化はコスト削減をメリットの一つとして考えている中で、結局ミドルウェアの設計、構築の人件費が必要になるのでは、あまりコスト削減のメリットは現れてこないのです。

 

図1:ITシステム構築の見えないコスト
ITシステム構築の見えないコスト
 

 それ以外にも、数十ギガバイトにもなる巨大な仮想イメージに対するパッチの適用やモジュールの追加・削除といった仮想イメージのフルライフサイクルの視点での管理方法や、仮想イメージを自動的に活性化させる為のスクリプトとの連携の仕組みなど単なるサーバーの仮想化では対応できない問題を解決する必要があります。

 こうした課題を解決し、仮想化、標準化、自動化の要素を取り入れたプライベート・クラウドを実現するための手段として、弊社ではIBM Workload Deployerの提供を開始しました。仮想化に加え、先ほど述べた標準化と自動化の機能をアプライアンスとして提供することで、迅速かつ容易にプライベート・クラウドを実現できるのです。

関連情報
IMPACT 2011

今回のインタビューに対応いただいた小島氏は、2011年7月14日(木)に東京都内で開催されるWebSphereブランドの年次カンファレンス「IMPACT 2011」でも、「プライベート・クラウドにPaaSを実装する意義と方法」と題した講演を予定しています。詳しくは公式サイトをご覧下さい。

WebSphere Application Server V8.0 アナウンスメント・ワークショップ
また、8月4日(木)と5日(金)の2日間、WAS V8.0の新機能を紹介する技術者向けワークショップの開催を予定しています。1日目は、新機能の概要とWASインフラ構成を、2日目は、Java EE 6仕様の更新部分や、WAS V8.0のアプリケーション関連の新機能など、アプリケーション開発に関する内容を紹介する予定です。

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システムのパターン化とデプロイメントの自動化による環境構築

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この記事の著者

吉村 哲樹(ヨシムラ テツキ)

早稲田大学政治経済学部卒業後、メーカー系システムインテグレーターにてソフトウェア開発に従事。その後、外資系ソフトウェアベンダーでコンサルタント、IT系Webメディアで編集者を務めた後、現在はフリーライターとして活動中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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