SUSEの年次カンファレンス「SUSECON 2026」が4月20日、チェコのプラハで開幕した。会期は4月24日までの5日間。初日はカスタマーアワードセレモニーが開かれ、2日目の午前の基調講演ではSUSEの経営陣と顧客企業、パートナー各社が相次いでステージに立ち、仮想化、AI、デジタル主権という3つの領域にわたって具体的な発表が続いた。今年のキーメッセージは「Choice Happens(選択が実現する)」──選択の自由こそがレジリエンスの根幹だという主張が貫かれていた。
CEOのダーク・ピーター・バン・ルーウェン氏(Dirk-Peter van Leeuwen、以下DP氏)は基調講演の冒頭で、2026年のCIOが直面する構造的な問題を提示した。AIの急速な進化がCIOに「AIを導入して競争優位を保ちながら、同時にレガシーシステムを維持する」という二律背反を強いている。加えて、地政学リスクによってサプライチェーンやベンダー戦略の前提が揺らいでいる。「われわれが知るグローバリゼーションは今、危機にさらされている」とDP氏が語るとおり、フランスがMicrosoftとの契約打ち切りを宣言するなど、国家レベルのベンダー戦略見直しも現実のものとなっている。
その上でDP氏が問いかけたのが、ベンダー統合の波に乗り込んだ結果、自社がどんな立場に置かれているかだ。「シナジーという言葉で売り込まれた統合の多くは、コストが増えるだけで追加の価値がない」という問題提起を行った。「2026年のITパートナーは、企業を縛るのではなく自由にしてくれる存在でなければならない」と述べ、「選択の自由の回復」という文脈のもと「主権、クラウド、Linux、仮想化、AI」の道筋を示した。
この流れの中で、Oracle Cloud Infrastructure(OCI)へのSUSEフルポートフォリオ展開も発表され、既存のAWS・Azure・Google Cloudに続く選択肢が加わった。
顧客企業とのパネルでは、エアバス ディフェンス・アンド・スペース シニアVPのNico Reuter氏と野村證券シニアVPのArnab Chatterjee氏、スイス国立スーパーコンピューティングセンター(CSCS)共同ディレクターのDr. Maria Grazia Giuffreda氏が登壇した。防衛・宇宙・金融・科学研究という業種の異なる三者が、それぞれ異なる文脈でベンダーロックインの問題と主権確保の必要性を語った。Reuter氏は「お客様のためにソリューションを何十年も運用・保守し続けなければならない業界では、ロックイン状態を避け、認証基準の進化に継続的に対応できることが不可欠だ」と語り、オープンソースを「主権の源」と位置づけた。
Chatterjee氏はVMwareが主権を阻害しているとして、「当初のVMwareは最高のサービスを提供していたが、時間が経つにつれて背負っているペットのゴリラのような存在になった」と形容した。この問題の打開として、SUSE Rancher Primeと仮想化ソリューションの導入によって「2年間でエステートの30%を変革できた」という実績を挙げる。SUSE Rancher Prime採用によって管理工数を80%削減し、アプリケーション展開を70%加速したと報告した上で、LLM「Apertus」の開発構想にも言及した。オープンなインフラを使って大規模言語モデルを構築するこの取り組みは、スイス発ではあるが「Linuxのように、巨大テック企業でなくても実現できることを証明したい」という欧州全体への広がりを志向しているという。
今回の発表の中で目玉の一つが、NVIDIAとの戦略的提携による「SUSE AI Factory with NVIDIA」だ。SLES 16とRancher Prime、NVIDIA AI Enterpriseを統合したエンタープライズ向けAIプラットフォームで、エッジからパブリッククラウドまで一貫したAIの展開とガバナンスを可能にするもので、2026年後半に一般提供(GA)開始予定。
イベントでは、NVIDIAのエンタープライズソフトウェア担当VPのJohn Fanelli氏が登壇し、「オープンソースを起点に、規制産業や主権展開まで対応できるこの組み合わせが、お客様の成功を可能にする」と話した。
次いで、仮想化の移行ツールとして発表されたのがCloudBase SolutionsのCoriolis(コリオリス)だ。VMwareのvSphereからSUSE仮想化環境への完全自動移行に対応し、SAP HANA環境のKVM移行もサポートする。さらにMulti-Linux Managerとの統合により、仮想マシンの移行中にRed HatやCentOSマシンを識別し、そのままSUSEのMulti-Linuxサポートへ切り替えることが可能になった。最高戦略責任者のFrank Feldman氏は「価格変更、コア数の引き上げ、不要な製品のバンドル──これが人質状態だ。鍵は移行速度にある」と断言した。Coriolisは5月中旬から提供開始予定で、既存SUSE仮想化ユーザーには5回、新規SLESサブスクリプションには10回の移行権利が付与される。
この日の講演で繰り返し強調されたのが「デジタル主権」だ。SUSEが発表した調査レポートによれば、5ヵ国309名のITリーダーを対象にした調査で、98%がデジタル主権を優先事項と位置づけているものの、具体的な対策を講じている企業は52%にとどまる。この乖離を、SUSEのAndreas Prins氏は「主権のパラドックス」と呼んだ。日本は57%が積極投資しており、ガバナンスとコンプライアンスへの意識の高さが背景にあるとされる。また、外国組織による自社データへの侵害を経験したと回答したITリーダーは51%に上った。
AMDコーポレートVPのKumaran Siva氏は産業界の視点から「最も基盤となるレイヤーでの選択が、スタック全体の独立性を決める」と述べ、オープンアーキテクチャを軸にしたソブリンAIスタックの構築に向けたAMDの取り組みを紹介した。
SUSEの施策としては、欧州拠点でデータ処理を完結する「ソブリン・プレミアムサポート」、EUクラウド主権フレームワーク準拠の自己評価ツール(無料公開)、15の移行パスからなる移行戦略、Infosys・Eviden・Atosと連携した「SUSE Oneソブリン・スペシャライゼーション」が示された。Prins氏はセッションの締めくくりに「ソブリンは選択肢ではなく、新しい標準だ(Sovereign is not an option. Sovereign is the new normal.)」と語った。
2日目にはCTPOのThomas Di Giacomo氏による技術基調講演が予定されており、SLES 16の詳細、エージェントAI対応、エッジ領域(産業用IoTプラットフォームLosant買収の詳細)について改めて報告される予定だ。各テーマの詳報は後日掲載する。
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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail : k...
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