戦略的な買収で獲得―クラウド時代に対応したサービス指向のストレージ
前項で紹介した「サービス指向」のストレージについて具体的に紹介する。クラウド時代には、自由自在に拡大・縮小可能なシステムが求められ、ノード単位での拡張が可能なスケールアウト技術が必須となる。 2008年にはLeftHandを買収しiSCSIストレージを大幅に強化した。2009年には高速ファイルサービスのIBRIX を買収しリッチメディアを中心に導入を拡大している。そして2010年にはクラウド向けユーティリティストレージの3PARを獲得した。クラウド業者をはじめ各業種において多数の導入が進行中である。この3つのスケールアウト製品技術は、HPにとってCI戦略を推進していくために必要不可欠なものとなる。各製品の特徴は以下のとおりである。
HP 3PAR Utility Storage
独自のスターメッシュ型クラスターにより高性能、高拡張性を備えたSANストレージである。9月1日には、大幅な性能向上と機能強化を行ったハイエンドモデル「HP P100003PAR Storage System」を発表した。3PAR はシン・プロビジョニングのパイオニアであり、自社開発のASIC(専用チップ)は、仮想化管理や未使用領域の開放をハードウェア処理で行うことができる。実績のあるシン・プロビジョニングと仮想化管理により、データのスリム化と管理工数の削減が可能である。米国ホスティングサービス業者の上位10社のうち8社で採用されており、クラウドサービス基盤、仮想化統合基盤として最適なストレージである。
HP X9000 Network Storage System(IBRIX)
最大16PBを1つのネームスペースとして扱うことができるクラスター型の高速ファイルシステムを備えたストレージである。容量や拡張要件により複数のモデルを選択可能で、ファイルサーバー部分と、ストレージ部分を別々に拡張していくことが可能。メディア配信、デジタルアーカイブ、医療情報やHPC(High Performance Computing)など、ビッグデータを扱うアプリケーションや、高性能ファイルサービス向けに最適なストレージである。
HP P4000 G2 SAN ソリューション(LeftHand)
iSCSIベースのクラスター型ネットワークSANストレージである。従来型のデバイスごとのRAIDではなく、ネットワークRAID を採用することにより、筺体を超えた高い可用性を提供。シン・プロビジョニングや複製機能を標準で搭載し、優れたコストパフォーマンスを実現する。SMB向けの共有ストレージから仮想化統合、クラウド基盤まで幅広く対応するソリューションである。
スケールアウト技術と並び、もうひとつ注力しているのが、データの重複をなくし格納容量を大幅に削減する新技術「 重複排除」である。HP 独自開発の HP StoreOnce重複排除を搭載したD2Dバックアップシステム は、2次ストレージや災害復旧のキーソリューションである。
今後の展望─ ストレージの共通基盤化を実現する「Store360」
新戦略のベースとなるもう1 つの新しい方向性が「Store360」アーキテクチャーである(図2)。「Store360」は、ストレージ専用のハードウェアで共通化を図り、その上にマルチプロトコル対応のストレージサービスを、アプリケーションとして実装し提供するもので、今後、順次提供予定である。具体的にはIBRIX、LeftHand、StoreOnce D2D をベースとしたNAS、SAN、バックアップの各ストレージサービスをソフトウェアで実装し、IPベースのプロトコルでアクセスする。ノード単位のスケールアウトにより、各サービスは中断なく大規模への拡張が可能となる。
ユーザーは、ハードウェア共通化によるコストメリットを享受でき、また多様なサービスに対応しつつ、管理の統合化、標準化による工数削減が可能になる。さらに、複数拠点にまたがって1つのリソースプールを作成したり、ニーズにあわせて柔軟にストレージノードを変更できるようになる。今までは、それぞれの用途で製品を選んで組み合わせていたが、今後は共通のハードウェア上で必要な機能をソフトウェアにより実装し、運用状況により構成を柔軟に変更していくことが可能になる。
クラウド/ビッグデータ時代に求められるストレージインフラの理想形が、3PARに代表されるスケールアウトと共通基盤「Store360」であり、今後この2つの技術を中心として製品の開発、提供を推進していく方向である。