ビッグデータ利活用のためのクラウドのアプローチとは
Hitachi Data Systems社(HDS)のプロダクトプランニング担当部長であるMichael Hay氏による講演は「日立ストレージのグローバル市場における新機軸」と題するものだった。Hay氏は現在をITの革命的な移行期だと見ている。その要因の一つは、3億3000万人を越すミレニアム世代と呼ばれる戦後ベビーブーマーの子どもたちが労働市場に参入しつつあることだ。中でも米国の9200万人は生まれながらのデジタル世代であり、その75%がソーシャルネットワークサービスを、アクティブに利用している。
2015年までに普及するモバイル機器は約17億台であり、同時期には75エクサバイトのデータが蓄積され、保管されると見られている。しかもその大半、約78%が非構造化データだ。そこでHay氏は「非構造化データの発見、分析、利活用が日立にとって重要な取り組みになる」と語る。顧客が求めているのは、すべてのデータが簡単に戦略的かつ価値ある資産に変換できることである。
HDSは市場の動向をリサーチするだけでなく、1対1のインタビューにより、顧客の抱える問題をより深く理解しようと務めている。そこで明らかになった課題の中で、注目したいのは2点。各企業のITインフラ統合の準備状況とストレージ機器削減の要望だ。
日立グループは重機、カメラ、エレベーター、大量旅客輸送手段、医療機器、科学的装置などの領域に参入している。そこで得られた知的財産を、別のシステムに移植できるのが、日立の強みになっている。またその中で大量の非構造化、半構造化データが格納されており、日立自身の大きな財産となっている。
日立はユーザーがエクサバイト規模でコンテンツを格納し、適切に解析可能な環境を提供する。このアプローチをインフラ・クラウド、コンテンツ・クラウド、インフォメーション・クラウドと呼んでおり、ビッグデータに対応していく。まずインフラ・クラウドは、サーバー、ネットワーク、ストレージなどの物理インフラだ。コンテンツ・クラウドでは、構造化および非構造化データの格納、検索を容易にする、よく管理されたソフトウェア、ハードウェアが提供される。そして最終目標がインフォメーション・クラウド。構造化および非構造化コンテンツを分析、可視化し、再定義するための高度なエンジン、及びツールが提供される。
日立はソリューション全体に責任を持つことが可能な、垂直統合がなされている数少ない会社だ。生産者であり、同時にビッグデータのユーザーでもある。最後にHay氏は「お客様と共にビッグデータ利活用という未開の領域を切り開いていきたい」と述べ、セッションを閉じた。
日立クラウド事業強化のロードマップ
続いて日立製作所の小川秀樹氏が登壇。「これからの日立クラウド事業~ビッグデータや社会インフラシステムへの対応~」と題する講演を行った。まず現在のクラウド市場では、コストや導入スピード、拡張性、柔軟性を求めるだけでなく、企業全体の見える化や全体最適のための取り組みが増えている。また特に震災以降、事業継続のためのバックアップ等をクラウドでやりたい、という問い合わせが多くなっている。
日立は安全・安心、スピード・柔軟、協創を提供するHarmonious Cloudというコンセプトを作り、クラウドの事業を進めている。小川氏は「基幹業務も支えるような安全安心なクラウドが求められるようになってきており、私どものめざした方向と市場のニーズが一致してきていると感じている」と語る。
日立のクラウド事業におけるロードマップには、高信頼、幅広い業務サービス、ハイブリッドクラウドという三つの柱がある。講演ではそれぞれの事例として、日本たばこ産業、企業間ビジネスメディアサービス「TWX-21」、鹿島建設における取り組みが紹介された。
日立クラウド事業における強化の取り組みでは、ビッグデータ利活用、スマートインフラというクラウドの新潮流に対応した、新たなサービス提供を推進する。同時にグローバル事業展開を加速する。ビッグデータ利活用サービスでは、ンサルティングから始まり、設計、構築、運用のフェーズまで一貫して支援する。その適用分野だが、例えば建設機械やプラント設備、エレベーターなどの保守業務、現場管理は日立が元々実業でやっている分野であり、その強みを生かしていく。運転データを収集し、稼働データを分析し、例えば故障の予兆管理など運転の診断をする。あるいはヘルスケア・医療分野、通信分野等、今後ビッグデータで非常に伸びていくと予想される分野で適用を図っていく。ヘルスケアでは医療画像情報を解析し、通信分野ではモバイル通信のログを解析し、活用する。
スマートインフラサービスにおいてもコンサルから始まり、運用フェーズまで一貫したサービス、支援を行う。ここでも日立グループが持つ実業でのノウハウに加え、先行的な研究開発の成果を反映する。スマートシティの実証実験では沖縄県、青森県六ヶ所村で実績があり、その成果を中国・天津などに実適用する。
グローバル事業展開では、Hitachi Data Systems社が強みにしているファイルストレージを核にし、コンテンツクラウド、インフォメーションクラウドの事業を、医療や通信、金融分野での展開を加速する。スマートシティ事業では実証実験の成果を新興国市場に拡大。それらを支えるデータセンターについては中国での拠点を強化する。
一方Harmonious Cloud基盤の強化ではまず、日立のストレージソリューションを活用し、大量コンテンツの管理を実現する。ストリームデータ処理基盤を使い、一元的な効率的管理を実現する。高速データ処理という部分では、データの特性に合わせた処理エンジンを用意。処理性能、スケーラビリティを向上させていく。ストレージ関係ではBlue Arc社を買収し、大量コンテンツの管理強化を図っており、超高速DBエンジンというところでは東京大学と共同研究を推進している。同時に情報制御連携環境、データセンターにおけるセキュリティ、センター間の高速通信インフラ整備によるバックアップ機能なども強化する。
最後に小川氏は「ビッグデータ利活用、スマートインフラの構築は、単に基盤を用意すればできる、というものでは無い。お客様の業務ノウハウ、アプリケーションノウハウと日立の経験を組み合わせて実現したい」と述べ、講演を締めくくった。