ロシアのモスクワに本社を置くカスペルスキー社は、アンチウイルスをはじめとする情報セキュリティソリューションの開発企業である。同社創設者の一人であり現CEOユージン・カスペルスキー氏は、1989年よりコンピュータウイルスの研究に携わってきた。現在もアンチウイルス研究所の代表を務めている。
「みなさんは日々の生活の中で何台のコンピュータを使っているか知っていますか?」
冒頭、カスペルスキー氏はこう参加者に問いかけた。これには理由がある。私たちを取り巻く社会のあらゆるものがデジタル化されてオンラインでつながり、コンピュータで制御されていることを改めて実感させるためである。
私たちをとりまくさまざまなITは、常に攻撃の脅威にさらされている
「例えば自動車にはカーナビゲーションシステムが搭載されており、オンラインでさまざまな情報が送られてきます。電車もそう。欧州ではコンピュータがダウンしたため電車の運行情報が乱れ、追突事故が発生するなどということもあった」(カスペルスキー氏)。
プライベートな写真やTwitterやFacebookの書き込みなど個人の生活はもちろん、ビジネス、政府、産業システムなどあらゆる情報が電子化され、オンライン上で保管されている。そして不幸にも「それらすべてがハッカーなどの攻撃の対象となりうる。私たちが住んでいる社会は常に脅威にさらされている」と警鐘を鳴らす。
ではどんな人たちが攻撃を仕掛けているのか。カスペルスキー氏は「サイバー攻撃を仕掛ける人にはさまざまなタイプがある」と解説する。まず、最初に挙げたのはサイバー犯罪者と呼ばれる人たち。彼らは金儲けのために個人、組織問わず攻撃を仕掛ける。次はアノニマス(匿名掲示板の利用者を中心に祭り、抗議行動、DDoS攻撃、クラッキングなどの行為を行う集団)やハクティビスト(社会的・政治的な主張を目的としたハッキング活動をする人)。彼らの目的は反乱や抗議を起こすためである。
「ただ、サイバー犯罪者との共通点もある」とカスペルスキー氏。それは使っている技術やツールが似ていることだ。したがって日中はハクティビスト、夜はサイバー犯罪者というように、同一人物が兼ねて活動している可能性もあるという。第三はサイバー兵士である。最近になって報告が増えている。この攻撃が最も危険で最も深刻な問題だという。
オンライン犯罪による被害総額は年間1兆ドル超
オンライン犯罪は、グローバルに行われている。あるボットネットを取引するサイトでは価格表はもちろん、まるで普通の会社のようにテクニカルサポートやプリセールスなどのサービスを用意している。
なぜ、オンライン犯罪が増えるのか。「それは経済的に非常に儲かるからだ」とカスペルスキー氏は語る。あるマルウェアを開発していた犯罪者は一日平均1000~5000ドル稼いでいたという。中には2万5000ドル稼いでいた人もいた。しかも用意するのはコンピュータとインターネット以外は知識だけ。自宅にいながら、大金を稼ぐことができるのだ。しかも犯罪はどこでも起こすことができる。「残念ながらサイバー犯罪は今後もどんどん増えていくと思う」とカスペルスキー氏。
では、どのぐらいの被害が予想されているのか。2~3年前に同社ではマルウェア犯罪による世界経済への影響を試算したところ、年間1000億ドル規模になるとしている。また別のセキュリティベンダーによると、マルウェア以外の犯罪も含んだ被害総額を1兆ドル超と予想しているという。
「昨年日本で起きた東日本大震災の被害総額は約3000億ドルといわていますが、サイバー犯罪による被害はその3倍もの金額。いかに被害が大きいかわかるだろう。しかも放射能汚染と同じで、なかなか影響の深刻さに気がつかないのです」(カスペルスキー氏)。