SAP HANAの成功があったからこそSybaseのデータベースを融合化する道が開けたのかな
ゴールデンウィークも明けてしまい、次の休みは夏休みまでお預け。それだとちょっと息切れしそうだが、IT業界はこれから夏までがイベントやらセミナーやら、さらには新製品の発表やらが目白押しとなる時期。5月9日には東京ビッグサイトでは、「ジャパンITウィーク2012春」と称してデータウェアハウスEXPO、クラウドコンピューティングEXPOなどが併催された一大イベントが開催され、熱い熱気に包まれていた。
同じく9日は、SAPがデータベース市場でのリーダーシップを目指すのだという発表も行われた。これまで、買収により統合されたとはいえ、SybaseはどちらかというとSAPからは独立した存在で、それほど融合したメッセージというのは出てきていなかったが、今回はSAPジャパンの営業部門とサイベース・アイエニウェアの営業部門を1つにして「データベース・テクノロジー営業統括本部」というのも立ち上げるとのことだ。
製品的にも、やっと「SAP Business Suite on SAP Sybase ASE」ということで、SAPのERPのデータベースとしてSybaseのデータベースがこの4月から正式対応することになった。検索速度では定評のあったカラムデータベースのSybase IQがSAP HANAと連携するという発表だろう。うまく連携できれば、さらなる高速な検索エンジンの活用が期待できるかもしれない。
今回Sybaseの融合化が進んだ背景には、SAP HANAの調子がいいことが理由としてあるのではないだろうか。HANAは市場で評価されつつあるけれど、さすがにインメモリのHANAだけでデータベースへの要求すべてをまかなうことはできない。そうなったときに、Sybaseを積極的に活用していくべきだよねという話なのではと。この動き、Sybaseを買収した時点からの既定路線だったのか、あるいは思った以上にHANAが好調なので、データベースソリューションを加速するために一気にSybase取り込みが加速されたのか。個人的には、後者なのではないかなと思うところだ。
とはいえSAP ERPのデータベースとしてSQL Serverが伸びているという話
SybaseがSAP ERPのデータベースとして使えるようになるとはいえ、現実的に多くの顧客がその組み合わせを採用するのには、まだちょっと時間がかかるかもしれない。とはいえ、これまでSAP ERPのデータベースとして大きなシェアを持っていたOracleにとっては、この変化はそれなりのインパクトを与えるのだろう。
UNIXやLinuxのプラットフォームでは新たな競争が始まるわけだが、WindowsプラットフォームでSAP ERPを動かそうとしている顧客の多くが、データベースにはMicrosoft SQL Serverを利用しているとという話を、先日聴く機会があった。そんな組み合わせの大きな事例の1つが、その話をしてくれたMicrosoft自身だとのこと。Microsoftでは自社でERP製品を持ってはいるが、ワールドワイドでSAP ERPを利用しており、そのデータベースサイズは6.6テラバイトに及ぶそうだ。もし1時間このシステムが止まるようなことがあれば、それだけでおよそ7億円もの損失が出るくらい、同社にとって重要なシステムとなっている。
この他にも事例は多数あり、台湾のある企業ではデータベースのサイズは25テラバイもあるとか。国内でも富士フイルム、NEC、三井物産などが、SAP ERPをSQL Serverで運用している。ちなみに、SAPの新規案件のおよそ8割がWindowsプラットフォームで、そのうちの7割がデータベースにはSQL Serverを選択している。
SQL Serverというと、大規模というイメージはそれほど強くないかもしれない。これは、最大のライバルであるOracleが、意図的に「SQL Serverは中小規模向けで、大規模ではそれほど競合しない」といったメッセージを出していることも少なからず影響しているかもしれない。米国MicrosoftでSQL Serverの開発担当マネージャーであるユルゲン・トーマス氏によれば、「SQL ServerのVery Largeデータベースの事例がここ最近はどんどん増えている」と言う。これが加速している要因としては、SQL Server 2008 R2から搭載された各種機能が評価されつつあるからだとのこと。
その中でもページレベルの圧縮機能が、サイズの大きなデータベースを扱う上で大きく貢献しているとのこと。この圧縮機能は、当然ながらSAP ERPでも利用でき、数TB規模のデータベースが数100ギガバイト程度まで小さくなる。サイズは小さくなるメリットがあるものの、圧縮によるオーバーヘッドでレスポンスが悪くなるのではという懸念が市場にはあるかもいれない。しかしながら、むしろデータの転送量が減ることによりレスポンスは向上する。「たとえば、5テラバイトのデータベースが1テラバイトに圧縮できれば、すべてをメモリに載せてしまうことができるでしょう。そうなれば大きな性能向上が期待できます」と、SQL Serverの開発部隊でSAP担当のシニアプログラムマネージャーを務めるキャメロン・ガーディナー氏だ。このようにメリットが高いので、SAP ERPではページレベルの圧縮機能はデフォルトでオンになっているとのことだ。
可用性向上のための柔軟な構成が可能になったことも大きなメリット
もう1つ大規模なシステムの事例が出てきている背景には高い可用性をSQL Serverが提供できるようになったからだとトーマス氏は言う。この可用性には、ローカルな環境での可用性と、災害対策で利用できるリモート環境での可用性という2つの種類があり、SQL Server 2012で提供されるAlwaysOnならばこれら2つの可用性を1つで対応できる。「以前のバージョンではプライマリとセカンダリのデータベースのサーバーは1対1の関係しかできませんでしたが、今回のバージョンからセカンダリを4つまで持つことができ、セカンダリを参照用やバックアップのためのサーバーにするなど、リソースを有効活用できるようになりました」とトーマス氏。
このAlwaysOnについては、Microsoft自身が同社のSAP ERPの可用性と災害対策のために利用しているとのこと。このようにMicrosoft自身がミッションクリティカルなアプリケーションで、最新のバージョン、最新の機能をいち早く活用していることで、顧客に安心してSAP ERPとSQL Serverの組み合わせを勧めることができるのだとガーディナー氏は言う。
今回のようなSAPのデータベース市場への本格参入、SQL Serverの大規模システムでの実績、こういったことがIT業界によりよい競争を生み出すはず。そういったことが結果的にユーザーにメリットの形で現れてくるのであれば、こういうベンダー間の競争状況は大いに歓迎すべきこと。ただし、ユーザー側にはさまざまなテクノロジーを見極める目と、それを使いこなす技術が求められる。それをサポートできるような情報提供を、DB Onlineではしていかなければなぁと改めて思うところだ。