EMCの新戦略は”Flash Everywhere”
11月15日には、EMCがそのフラッシュ製品の戦略説明会を開催した。EMCのメッセージは、”Flash Everywhere”というもの。サーバーのPCIeスロットにフラッシュキャッシュを直接刺すもっとも高速な製品から、フラッシュキャッシュだけで構成されるサーバーフラッシュアプライアンス、フラッシュだけのストレージとなるオールフラッシュストレージアレイ、フラッシュとハードディスクを両方搭載するハイブリッド・アレイというように、上から下までフルラインナップでフラッシュ製品を提供する。これらにより、顧客の抱えているI/O部分の課題を「劇的に解決する」のだとのこと。
部品としてのフラッシュメモリだけ見れば、すでにコモディティ化しておりどのメーカーのフラッシュメモリでも性能差はそれほどあるものではない。EMCやFusion-ioなどのベンダーは、それらコモディティ化した部品を使って、いかにしてエンタープライズ領域で利用できる信頼性を持たせるかについて努力している。それを実現させるのは、ハードウェア技術と言うよりはむしろソフトウェアの技術になるとのことだ。
Oracle Exadata X3では、圧縮によりさらに大きなデータをインメモリで扱えるようになっている。さらには改良された「Exadata Smart Flash Cache」により、書き込み容量を10倍にしたとのことだった。これはソフトウェアで実現しているところ。EMCもまた、フラッシュキャッシュを活用するために独自機能を実装している。その1つが、フラッシュキャッシュの上で同社お得意のインライン重複排除を行うこと。これにより、ギガバイト単価を低くし、書き込み回数を減らしてフラッシュの寿命を延ばすといった、より大きな経済価値を提供する。
フラッシュメモリを使えば、手間をかけずに性能が向上するのは当たり前。EMCが来年には提供を開始するオールフラッシュストレージの製品、開発コードネーム「Project X」は、100万IOPSを発揮する製品となるようだ。ハードディスクベースのストレージをこれに置き換えれば、確実に性能は向上する。とはいえ、最終的にはそれらを利用したシステムで動くデータベースなりアプリケーションなりが、どれだけ速くなるのかがポイント。ストレージだけがとてつもなく速くても、ユーザーレスポンスがたいして向上しなければ意味はない。
いかにしてハードウェアとソフトウェアを融合し、トータル性能を向上させるのか。これはまさにOracleの言うところの「エンジニアドシステムズ」ということになるだろう。EMCもこのことを明確な言葉にはしてはいないが、ときおり彼らが口にする「EMCはもはやソフトウェアの会社」という発言には、それが現れていると思う。
ところで、じつはこの日、EMCのフラッシュ製品戦略を発表したのは、8月にマーケティング本部 本部長に就任したばかりの上原 宏氏だった。上原氏の前職場はHP、そこでサーバーマーケティング統括本部 統括本部長を勤めていた。上原氏はEMCに入社して3ヶ月、まだ経験が浅いため客観的にEMCのことを眺められると言う。そして「EMCがM&AやR&Dへの大きな投資ができているのは、本当に素晴らしいと感じるところです」とのこと。この投資の多くが、まさにソフトウェアの開発に使われており、製品の信頼性向上やシステムのトータルでの性能向上に貢献しているのだ。
HPも当然、ソフトウェアには投資をしてはいるだろう。しかし、その印象はあまり強くない。外からはむしろ「ソフトウェア部分は他ベンダーと協力していきますよ、我々はいいハードウェアを安く提供しますよ」という立場に見える。結果、ハードウェアはコモディティ化し価格競争に陥り、会社全体の業績を伸ばす武器にはなりにくくなっているのではと。ハードウェアを価値あるものにするのは、いまやソフトウェアの力あってこそだと改めて思うところだ。