【ガートナー】エージェンティックAI時代のアプリケーション調達戦略/フランケンスタックの罠にはまらない方法とは?
ガートナー ジェイソン・ウォン氏 インタビュー
レガシーアプリケーションがビジネス成長の阻害要因になる。そう考えた企業は、自社のアプリケーション環境の近代化に取り組んでいるが、生成AI、エージェンティックAIの登場で、エンタープライズアプリケーション自体の変革が始まった。CIOは自社のアプリケーション調達方針をどう見直すべきか。「インテリジェントアプリケーション」を提唱するガートナーのアナリストに聞いた。

次世代エンタープライズアプリケーションはインテリジェントアプリケーションに
──まずインテリジェントアプリケーションとは何か、ガートナーの正式な定義をお聞きしたい。
正式な定義は、「インテリジェンス、すなわち適切かつ⾃律的に応答するための、学習で得られた適応⼒を持つアプリケーションである。こうしたインテリジェンスは、作業の拡張や⾃動化のために多くのユースケースで活⽤できる」というものだが、私自身のクライアントへの説明では、簡単に「自己学習、自己修復、継続的な適応を行うアプリケーション」としている。
──「2024年の戦略的テクノロジのトップ・トレンド」の1つと聞いた。取り上げた背景には何があるのか。
テクノロジートレンドでは、機械学習から始まり、大規模言語モデルが登場し、生成AI、ニューロシンボリックAIなど、様々なテクノロジーが融合しつつある。また、システム間でデータが密接に結びつくようになったことが、インテリジェントアプリケーションを可能にした。次世代エンタープライズアプリケーションはインテリジェントアプリケーションになるとみている。そして、それを支えるビジネスドライバーを、ガートナーでは「自律型ビジネス」と呼んでいる。10~15年ほど前から、議論の中心はデジタルビジネスだったが、自律型ビジネスはその次世代型のモデルになる。今、私たちは自律型ビジネスを実現するための基礎を手にした。
──講演では、自律型ビジネスの5つの要素を紹介していた。改めてそれぞれの解説を簡単にお願いしたい。
自律型ビジネスには、「1. 自律型オペレーション」「2. 拡張管理」「3. スマートプロダクト」「4. マシンカスタマー」「5. プログラマブルエコノミー」の5つの柱がある。最もわかりやすいのは、自律型オペレーションだと思う。ここ数年、企業は自動化に注力してきた。そして、AIエージェントの登場は、多くのエンタープライズアプリケーションがこれから向かうべき方向を明確にした。2つ目の拡張管理もわかりやすい。データサイエンスは、マーケティングやファイナンスなど、様々なビジネス機能に浸透している。膨大なデータをより良い意思決定のために使いたい。この思いに、AIテクノロジーが応え、人間の意思決定を拡張できるようになった。残りの3つは、組織にとって少し難しいものになる。スマートプロダクトでは、製品やサービスを環境に合わせて常にアップデートしなくてはならない。マシンカスタマーでは、顧客とのやり取りのためのアルゴリズムをどのように構築するかが問われる。プログラマブルエコノミーでは、新しいテクノロジーを用いて決済の仕組みを構築しなくてはならない。
現状評価に役立つインテリジェントアプリケーションの5つの原則
──最初の2つと比べると、他の3つの挑戦のハードルは高い。それでも企業は次のフロンティアに向かわなくてならないのか。
自律型オペレーションと拡張管理は、コスト面にインパクトはあるが、他の3つは収益成長に貢献できる。新しい成長機会、市場や顧客を求めている企業は注力する価値がある。
──アプリケーション環境の移行が必要だとすると、CIOは調達方針をどう見直せばいいか。
私たちは「ブレンディング」と呼んでいる。つまり、購入したアプリケーションに自分たちで構築した機能を連携させることで、インテリジェントアプリケーションは、モダナイゼーションと変革に向けた戦略となる。インテリジェントアプリケーションは「適応型エクスペリエンス」「自律型オーケストレーション」「コンポーザブルアーキテクチャー」「コネクテッドデータ」「組み込み型インテリジェンス」という5つの原則によって実現する。CIOとそのチームには、この5つの原則に基づき、インテリジェントアプリケーションへの準備状況を評価することが求められる。

──その準備に関連して、聞きたいと思っていたことが1つある。SaaS導入が進んだことで、企業内のアプリケーション環境が複雑になったという問題をよく聞く。CIOはどんな戦略で自律型ビジネスへの変革を進めればいいのか。
CIOが理解すべきは、アプリケーションの数や規模ではなく、自社に必要なビジネス機能は何か。そして、それぞれのビジネス機能をアプリケーションがどうサポートしているか。アプリケーションが提供する機能がビジネス機能の役に立っているかを評価する必要がある。ビジネス機能には、様々なレベルがあり、ガートナーでは、レベル0からレベル5まで掘り下げて整理することを推奨している。レベル0の例を挙げると、営業や製品開発など。これらはCレベルの役員が担当するものだ。営業であれば、レベル1のビジネス機能はリードジェネレーションやアカウント管理などになる。Salesforceは、営業を始め、複数のビジネス機能をカバーするアプリケーションを提供してきた。ServiceNowは、ITサービス管理や資産管理など、ITのビジネス機能をカバーするアプリケーションを提供してきた。一方で、それぞれがお互いの領域に参入しようとする動きも見えてきた。だから評価が必要になる。
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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)
IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...
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