「拠点間のカベ」を無くすデータ連携
データ分析からビジネスの競争力を引き出すためには、データを収集、蓄積する基盤を構築する必要がある。しかし、大半の企業がここでつまずくといえるだろう。企業内には、出自の異なるデータソースがばらばらに存在する。マスターデータを一元化するには、IT部門の強力なイニシャティブが必要になる。「データ連携」が今、再度注目をあびているのはこうした背景にある。
最近オープンした人気の「京都水族館」「すみだ水族館」は、チケット販売システムと様々なシステムのデータ連携で先進的なビジネス活用をおこなっている事例である。
運営会社のオリックス不動産は、チケット販売、団体予約、会員管理、物販管理、売上管理、入場ゲート、退場ゲートなど複数のシステムのデータを、あたかもひとつのシステムのように有機的に連携させ、効果的なキャンペーンや会員施策を展開している。チケットや売上のマスタは、京都水族館、すみだ水族館などの「拠点間のカベ」を無くして連携されている。これによりマスタ登録の手間を削減すると共に、全体的な会計システムで把握でき分析を迅速におこなうことが可能になっている。データ分析を個別の営業ニーズに応えるべく現場でおこなう事例は多いが、全社的に組織のカベを超えて、かつ現場の運用性、可用性をそこなわず実施した好例といえるだろう。構築したのはパナソニックインフォメーションシステムズ。連携の方法としては、インフォテリアの「ASTERIA」を導入した。これにより、立地の異なる水族館ごとの、予算データ、来商社データ、売上実績などの分析軸の異なるデータを集約し、経営分析が可能になった。
データ分析を経営意思決定に導入するには
すみだ・京都水族館のような、異なるデータソースを連携させ、分析をおこなう方法は現実的である。しかし一般企業にとって難しいのは、こうしたデータ重視の企業風土を醸成することである。
経営者、事業責任者、現場マネージャー、現場スタッフなどが同じデータ(事実)を基に議論し、そこから仮説を立て、それをまた検証するために実行(または実験)し、その結果を分析するというサイクルを経営に組み込んでいくことが重要だが、実際には容易ではないと、ITRの内山悟志氏は語る。日本では過去の経験則や「ヒラメキ型」のリーダーシップが尊重されるだ。こうした企業風土を変革するには、データ分析に基づく意思決定を、目標管理や業績評価と結びつけ、企業の通常のビジネスの仕組みに組み込んでいくことが必要である。
ITRの内山氏は、これを「データ重視経営」とよび、経営層、社員への意識改革を提唱している。
データ重視経営とアーキテクチャ
データによる意思決定の基盤を構築する方法は、上記のような個別のデータ連携の他にも、ESB(Enterprise Service Bus)などのシステム連携基盤を導入するなど様々な方法がある。
それぞれに運用性や保守性などのバランス、複雑性への対処方法などが異なる。情報システム部門の課題は、自社のシステムとデータとビジネスのニーズを見極め、有効な方法を選択することである。長年のレガシーシステムに加え、IaaS、SaaS、PaaSなどのクラウドなどが絡み、複雑性が増大していることも課題だ。
元産業技術大学院大学教授の南波幸雄氏は、「情報システムアーキテクチャー」の視点から、いくつかの整理の仕方を紹介している。ポイントは、個別のシステムの複雑性を理解し、目的に合わせてアーキテクティングする方法論である。南波氏は、この課題に都市計画のアプローチを導入することが有効であるという。
以上のような「データ重視経営」のためのデータ連携事例、風土改革、アーキテクチャーの考え方が12月7日のセミナーで紹介される予定だ。
・開催:2012年12月7日(金) 13:30~17:00
・会場:ベルサール神保町(東京) ・参加無料(事前登録)
・主催:翔泳社
・協賛:インフォテリア
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