ITR 内山悟志氏「データ重視経営とそれを支える情報基盤のあり方」
内山氏の基調講演の論点は、データ活用や分析の技術が進化してきているにもかかわらず、日本企業ではまだまだデータの活用や分析が進んでおらず、ITが競争力に結びついていないという点である。
ITRの調査によれば、日本企業のIT部門の「3年後の実施予定」はここ数年、データ分析や統合、共有といった情報活用基盤の課題が続いているが、施策そのものはあまり進展していない。「日本企業には情報活用で超えるべき壁がある」と内山氏は指摘する。重要なのは経営から業務の現場までが「OneFact = 共通の事実」を元に議論し、実行し、分析するというサイクル。そのためには「データ重視の企業風土」を醸成し、企業風土を変えることだ。内山氏が強調したのは、「経営に科学と工学を組み込む」「分析を業務に組み込む」という考え方。こうした経営とIT部門がもつべき思考プロセスをいくつかの図解で紹介した。
インフォテリアCEO 平野洋一郎氏「クラウド化がもたらす経営と企業価値の変革」
続いてインフォテリアの平野社長が登壇。2002年に日本発のXML専業ベンダーとして出発したインフォテリアの「ASTERIA」は今年が10周年。EAI/ESB市場では46.9%のトップシェアで地に足の着いたデータ連携ツールとして定着している。平野社長が見据えているのは、現在の「クラウド」「モバイル」「ビッグデータ」の潮流。「スマートフォンが企業ITには使えないと思っていたら大間違い。PCが登場した時、インターネットが登場した時も同じことが言われた」と語り、「ITによる競争力のスマイルカーブ」「人的資源も所有から利用にシフト」「21世紀組織は分散・自律・協調」という知見を紹介した。また企業(エンタープライズ)が消費者(コンシュマー)のようにITシステムを消費する「エンタープライズコンシュマー」の時代となり、企業の持ち物はデータだけになるという。システムのニーズも、従来型のデータソースごとの接続から、複数のシステムを高速かつ確実に処理するデータ処理基板基盤へと進化する。こうした流れの中で、IT部門は「オンプレからクラウドへ」大きく舵を切るべきだと提唱。「今や最大の保守勢力となったIT部門を脱しIT部門長はイノベータとなり、時代を自ら体現すべき」と熱く語りかけた。
ベネトンジャパン、京都水族館・すみだ水族館によるシステム連携事例
ベネトンジャパンの大網東市氏はインフォテリアのAsteria Warpによる高速開発の事例を紹介した。本社がイタリアにあるベネトンは、売上や販売のデータを本社とつなぐシステムを3年前に構築したが、現在ではそのシステムをさらに進化させ、販売データの分析集計や、オンラインショップとの連携も行なっている。
ベネトンの企業風土からも、あまり複雑で難解なシステムを構築するのではなく、ノンコーディングでビジュアルに連携させ、かつ短期で開発できるAsteria Warpが適していたという。複数のECサイトの売上をAsteriaサーバーで連携させ、店舗管理システムに一元化している。また、販売の日報データからExcelで分析をおこないPDFで自動的にレポーティングをおこなうことや、顧客へのOne To Oneメールの配信などを、数日間で構築している。
Webビジネス企業が追求しているO2Oなどのキャンペーンや、コマースのバックエンド連携といった先進的なシステムを、簡単に実現した事例である。
もうひとつの事例として、パナソニック インフォメーションシステムズの井上温子氏が京都水族館・すみだ水族館のデータ連携を紹介した。同社が構築したのは、水族館を運営するオリックス不動産のシステム。チケッティングをはじめとする集客施設「まるごと」ソリューションである。
システムの複雑化に適合するアーキテクチャの視点 〜 アナリシスとシンセシス
最後に元産業技術大学院大学、現コンサルタントの南波幸雄氏が講演。「企業情報システムアーキテクチャ」を専門とする南波氏は、システムの現状の問題として、スパゲッティ化による複雑性、運用技術の多様化、技術や知識の属人化などをあげ、これらを解消するための考え方として、システムの構成要素化するアナリシスの視点と総合化するシンセシスの視点を紹介した。部分と全体の設計アプローチとして都市計画モデルを解説。データ連携や変換の考慮点や、オンプレミスとクラウドが連携する際のガバナンス領域について解説した。