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アップル対サムスン訴訟、賠償の大半が“意匠権侵害”-ソフトウェア技術者にも重要な「意匠権」とは?

■第四回

昨年8月、北カルフォルニア地裁アップル対サムスン訴訟で、サムスンに約10億ドルという巨額の賠償金支払いを命じる陪審員評決がされたことはよく知られている。しかし、その10億ドルの内訳のほとんどは意匠権侵害に関するものであったことはあまり知られていないかもしれない。特許権侵害による賠償額は約1,000万ドルにすぎず、残りのほとんどは意匠権侵害によるものだ。今回は、ソフトウェア技術者やIT関係者にとっても今後重要になってくる「意匠権」(デザイン特許)について解説する。

アップルの強力な武器となった意匠権

 昨年8月、北カルフォルニア地裁アップル対サムスン訴訟で、サムスンに約10億ドルという巨額の賠償金支払いを命じる陪審員評決がされたことはよく知られている。しかし、その10億ドルの内訳のほとんどは意匠権侵害に関するものであったことはあまり知られていないかもしれない。

 特許権侵害による賠償額は約1,000万ドルにすぎない。残りのほとんどは意匠権侵害によるものだ(それ以外にトレードドレスという米国特有の商標的な権利による賠償額もある)。この裁判は意匠権の重要性を業界に知らしめることにもなった。

図1:アップル対サムスンで争点になった意匠の例

 第1回でも簡単に述べたように、意匠権とは、工業デザイン(インダストリアル・デザイン)、つまり、物理的な品物の外観を保護するための権利だ。あくまでもデザインとしての価値を保護するものであり、機能的な価値を保護するものではない(これは特許や実用新案の領域だ)。

 たとえば、家電、自動車、ファッション用品など、デザインが商品の価値に大きく影響を及ぼし、他者による模倣もされやすい領域では意匠権はとりわけ重要だ。

 ITの世界で「デザイン」というと、ソフトウェアの設計を指すことも多いが、ここで言う「デザイン」とはあくまでも工業デザインであることに注意して欲しい。メディア記事等で「デザイン」という言葉が出てきた時には文脈から判断する必要があるだろう。

 また、以前にも触れたが、日本では特許権と意匠権をそれぞれ特許法と意匠法という別の法律で扱っているのに対して、米国等の一部の国では、特許法の中で意匠権も扱っている。そのため、米国では特許だけでなく意匠権もpatent(より正確にはdesign patent)と呼ばれる。翻訳記事で日本では意匠に相当するもののことをデザイン特許(あるいは単に「特許」)と訳していることがあるので注意が必要だ。

 意匠制度の考え方は特許制度に似ている。意匠権を取得したい者は、使用する物品の指定とデザインの図面等を書類にまとめて特許庁に出願する。今までにないデザインであること、今までにあるデザインから容易に思いつかないこと等の要件を満足すれば、登録され意匠権が生じる。日本の制度では、意匠権は登録の日から20年有効だ。意匠権を所有していれば、その物品において類似のデザインを他者が製造・販売等することを禁止できる。特許権と同様に強力な権利だ。

次のページ
意匠権と著作権の区別

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この記事の著者

栗原 潔(クリハラ キヨシ)

株式会社テックバイザージェイピー 代表、金沢工業大学虎ノ門大学院客員教授日本アイ・ビー・エム、ガートナージャパンを経て2005年6月より独立。東京大学工学部卒業、米MIT計算機科学科修士課程修了。弁理士、技術士(情報工学)。主な訳書にヘンリー・チェスブロウ『オープンビジネスモデル』、ドン・タプスコッ...

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