「ん? 何だか普段と違う動きしてるみたいだぞ……」
と、時々刻々やら、時系列データやらの概念は何となく分かった気になったけど、でも実際の使い方のイメージはまだ今一つピンと来ないなあ……とここで、横山さんの同僚の池永絵里さんが一言
「トウデンの事例があるんですが……」
と親切に説明を始めてくれた。ああ、電力会社ですね。
「いえ、電力会社のことではなくて、途上国での盗電の事例です」
盗電……盗電? 盗んだ電動チャリで走り出す?? 行き先も分からぬまま???
「『電気を盗む』という意味です。実は途上国では、敷設した電線から不法に電気が使われてしまうことが日常茶飯事にあるらしいんです。そこで、この盗電を防止するために日立のストリームデータ処理基盤が使えないか、現在検討を進めているところです」
盗電って、そういう意味だったんですね。そんな言葉が世の中に存在するとは、まったく知りませんでした。世界は広いなあ……(遠い目)。
でちなみに、そこでは時系列データの分析がどのように活用されてるんでしょうか?
「盗電対策のために、電線の電圧値を常時監視しているのですが、値が閾値を越えるたびに警告を発していると、スパイクなど瞬間的な電圧上昇もすべて拾ってしまうので、誤報が多くなってしまうんです。そこで、電圧のデータを時系列分析して、その値の動向の“傾向”を割り出します。その上で、その傾向から大きく外れた場合にのみ警告を発するようにします。こうした仕掛けによって、誤報の少ない高精度な監視が可能になるわけです」(池永さん)
なるほどねえ。要は、時系列データの分析で、物事の推移の「傾向」が割り出せるわけですな。で、「現在の推移」が「普段の傾向」からどの程度外れているかによって、今この瞬間に異常事態が進行しているか否かをリアルタイムに判断すると。
ちなみに池永さん、現在このほかにも、データセンター内の温度や風量のリアルタイム計測を実現する取り組みや、日立横浜事業所の新社屋で行っているビッグデータとスマートシティの実証実験「快適ecoプロジェクト」など、複数のプロジェクトでストリームデータ処理の活用を推進しているそう。
ちなみに横山さんの方はというと、現在主に取り組んでいるのが、日立のシステム運用管理製品「JP1」にこのストリームデータ処理基盤を組み込んだ「JP1/IT Service Level Management」という製品だそうで。製品名ついでに言うと、日立のストリームデータ処理基盤は「uCosminexus Stream Data Platform」という名だ。
「ストリームデータ処理基盤を使ってHTTPリクエストの応答時間をリアルタイムに分析することで、ユーザーの体感レベルでのシステム性能を監視できる製品です。この製品に特徴的なのが、『ベースライン』という考え方です。時系列分析によって割り出した『普段の応答時間の傾向』をベースラインとして定義しておいて、そこから大きく逸脱する傾向がリアルタイムで検知されたら『障害が起こる予兆』だと判断してアラートを発します。これによって、応答時間が閾値を超えてトラブルに発展する前に、つまり予兆の段階でトラブルの芽をあらかじめ摘んでおくことができるわけです」
これ、時系列分析で割り出した「普段の傾向」と「今この瞬間の傾向」を比較するという意味では、さっきの盗電の事例とよく似てる。ちなみに横山さんは、このほかにはどんなプロジェクトを担当されてるんですか?
「何校かの大学さんで、日立のストリームデータ処理基盤を使った実証実験を行っていただいていて、その支援を担当しています。中には面白い取り組みも幾つかあって、例えば、圃場や養殖場での生育や盗難を監視するためにストリームを活用するような事例もあります」(横山さん)
圃場や養殖場での盗難? 盗電に続き、またもや盗難モノですか!何でも、樹木の振動や水面の動きをセンサーで監視して、異常な傾向をリアルタイムで察知したら警報を上げるという仕組みだそうで。いやはや、よくもまあこんな突拍子もないアイデアを思い付くなあ(この際、『監視カメラ設置すりゃいいじゃん!』という身も蓋もない突っ込みはなしね)。