苦難の日々を乗り越えてようやく表舞台に!
とまあ、現在数多あるストリームデータ処理の事例の中でも、筆者の独断と偏見で面白そうなものだけ幾つかピックアップして紹介してみたが、田村さんによるとやっぱりどれもこれも「アイデア勝負」みたいなところがあるようで。
「従来のデータ活用とは系譜が異なる、まったく新しい発想に基づくソリューションなので、ビジネスにうまく生かすためにもやはり新たな発想やアイデアが求められます。そこでわれわれや、日立社内にいるデータ・アナリティクス・マイスターなどがお客さまの相談に直に乗って、今お客さまが持っているデータをストリームデータ処理でどんなビジネス価値に転換できるか、頭を必死にひねりながらアイデアを出しているところです」
ああ、データ・アナリティクス・マイスター! 本連載の第3回でいろいろ教えてもらった人たちか。そういえばあのときは、Hitachi Advanced Data Binder(HADB)を使ったビッグデータソリューションの話だった。
「ビッグデータソリューションの一環として、HADBのチームと連携しながら案件に当たることもあります。それに日立は昔からインフラ事業を扱ってきましたから、ビッグデータとは本来とても親和性が高いんです」(横山さん)
そうそう、ビッグデータといえば、やっぱりインフラ関係が分かりやすいよね。インフラに据え付けられたセンサーから大量のデータを集めてきてうんたらかんたら……というのがやっぱりビッグでデータな感じがするもんね!
実際、日立がこれまで手掛けてきたストリームデータ処理の導入事例も、東証の指数高速配信サービスやら、交通状況のモニタリングやら、スマートグリッドやら、「いやあ、いかにもインフラですなあ」という感じのものが多いらしい。特に金融インフラの世界では、アルゴリズムトレードが当たり前になった今日、ストリームデータ処理はかなり一般的になってきているとか。
ちなみに、ストリームデータ処理業界(という業界があるのかどうか知らないが)には今、大手ベンダーが続々と参入を果たしていて、かなりの盛り上がりを見せているんだとか。この分野の製品は、専門用語で言うと「CEP(Complex Event Processing)」とか「ESP(Event Stream Processing)」とか呼ばれてるらしいが、試しに「CEP」でネット検索をかけてみると、おお、出てくるわ出てくるわ。大小さまざまな海外ベンダーや国内ベンダーから製品が出てるみたい。
田村さんいわく、
「日立の製品には、『自社開発』という大きな強みがあります。日立のストリームデータ処理基盤も、買収による入手や、オープンソース製品の利用でなく、2000年代初頭に米国の大学でストリームデータ技術の基礎研究が始まったばかりのころから、社内の技術者を留学させて基礎研究を積み上げてきています。そうした長年に渡る研究の成果を生かして、一から製品を開発しているんです」
出た! 純国産の誇り!
「製品内部の隅々まで把握していますから、チューニングやカスタマイズが効きます。例えば東証の事例ではかなり厳しい性能要件があったのですが、高度なカスタマイズによってそれに適う性能を無事に達成することができました」
なるほど。ここまでの話を聞く限りでは、日立のストリームデータ処理、何だか先行き明るそうじゃないですか。とここで、池永さんが感慨深げに、
「私は製品のファーストバージョンの開発から関わってきたのですが、リリース直後の2008年当時はまだビッグデータのビの字もなくて、お客さまに紹介しても『何ですかそれ?』『ああ、凄いですね。でもうちには関係ないですね』といった反応ばかりで……でもここに来てようやく、ビッグデータの波に乗って、徐々にCEPの認知度が上がってたんです」
そんな辛い過去があったとは露知らず……でも、これからがようやくリベンジの時じゃあないですか! 実際、田村さんの鼻息は随分荒そうだ。
「インパクトのある事例がいったん世に出れば、一気に普及する技術だと思います。実際、近いうちにそうした事例を発表したいと思っています。目標としてはここ1、2年の間に、リレーショナルデータベースと同じぐらいスタンダードな技術にしたいですね!」
「ここ1、2年の間に、リレーショナルデータベースと同じくらいスタンダードな技術に」!
エライ、よく言ったー!かっこいいー!田村さんの心意気にストリームデータ処理の未来を確信したところで今回はここまで!