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日本企業の成長戦略の1つ「M&A」は“何勝何敗”?

(第25回)

NTTドコモが「らでぃっしゅぼーや」や「タワーレコード」などを買収したように、自社の事業領域が飽和している場合、買収や提携などを通じて新規事業領域や海外市場に進出する非連続的成長(inorganic growth)は大きな戦略オプションの1つです。ただ、日本の事業会社によるM&Aの多くが成功しているとは言えません。なぜ上手くいくケースが少ないのかを、実際の事例を見ながら説明していきたいと思います。今までの連載はこちら。

創業社長のリーダーシップが、M&Aを成功に導く?

 図表1は、日本の事業会社によるM&Aの成功事例です。上から3つはソフトバンクによるもので、日本テレコム、ボーダフォン、イー・アクセスです。左は、発表前の時価総額です。

 
  図表1 事業会社のM&A事例1                          

日本の事業会社のM&A:ソフトバンクの成功事例

 2004年7月に、ソフトバンクが日本テレコム(JT)を買収しました。買収発表前の時価総額は4800億円で、発表後は35億円ほどしか増加しませんでした。3400億円で買収完了した後は4500億となり、この際も市場はあまり好意的には反応しませんでした。買収時点における日本テレコムは、米投資ファンドのリップルウッドがボーダフォンから日本テレコムを買収した際の負債を返済できておらず、財務状況が悪化すると懸念されたからです。

 しかしながら、法人顧客向けの営業要員の増強などによる固定通信事業の収益性強化、戦略的事業部門への要員のシフトと組織のスリム化や、グループ全体の通信インフラの統合によるコスト削減といった施策を行った結果、上手く統合のシナジーを発揮し、3年後には2兆8000億円まで増えました。

 ボーダフォン日本事業の買収の際には、発表時点では3兆円の時価総額で、1兆7500億円をかけて買収しました。買収直後には、自己資本比率も悪化しキャッシュフローの不安もあったため、時価総額は2兆5000億円まで落ちました。基地局増設などによる第3世代(3G)ネットワークの強化による不感エリア解消といった戦略も当初は芽が出ず、もうキャッシュフローアウトするのではないかと思われた買収3年後には、時価総額1兆3000億円まで落ちています。

 しかし、固定通信に比べれば固定費が低く販管費が高い携帯通信事業の特性を活かした低額サービス提供が奏功したうえに、i-phone効果もあって、現在は時価総額6.5兆円まで上がっています(6月26日時点)。

 相当綱渡りではありましたが、ソフトバンクの孫さんによるM&Aは、日本の事業会社によるM&Aの事例の中ではかなり上手くいっており、M&Aに関するノウハウは同社の戦略資産の一つといっても過言ではないと思います。

日本の事業会社のM&A:楽天の成功事例、電通の稀有な成功パターン

 楽天は、2010年4月にイーバンク銀行を買収しました。買収発表前の時価総額は8800億円で、買収金額は1655億円でした。そもそも楽天はM&Aで成長してきていますが、買収後には市場の期待が高まったことで9600億円にあがり、楽天グループ各社との連携シナジーが出だした3年後には1兆2500億円になり、さらに今は1兆5000億円(6月26日時点)まで成長しています。

 このように、楽天にしてもソフトバンクにしても、有名な日本電産にしても、創業者がかなり強烈なリーダーシップでM&Aと買収後のマネジメント(PMM: Post Merger Management)をやりきっているケースは、成功する傾向が強いと言えるでしょう。

 ただ、一代で築き上げたワンマンCEOにありがちなリスクとしては、彼らの後継者候補があまりいないということだと思います。やはり優れた経営者をM&Aで獲得するのは難しいので、禅譲に当たっての競争・育成の体制を早期に整えることが肝要とは言えます。

 KDDIは、ジャパンケーブルネット(JCN)を買収し、現在は4.2兆円(6月26日時点)まで増えていますが、どちらかというとi-phone効果でauのユーザーが増えていることが大きいと思われるので、この買収が大きく成長に作用しているとは言えないかも知れません。

 テンプHDによる、投資ファンドKKRからのインテリジェンスの買収でも、買収前は時価総額1000億円だったのが、今は1300億円ちょっとになっています。買収には680億円かけたものの、インテリジェンスの得意分野である人材紹介、広告事業を含む転職支援事業を取り込むことによってテンプHD自体の人材派遣事業への依存度を低下させる戦略が成果を挙げ、収益面で営業利益にして70億円ほどの効果が出ています。その結果、時価総額も300億円ほど増えています(6月26日時点)。

 電通は今年3月にイージスを買収して、その効果が出始めてきているところです。買収発表前の時価総額は6500億円で、4090億円で買収しています。買収後は、市場の期待値もあって時価総額8000億円まで上がりました。それから現在にかけて、海外本社として設立した「電通・イージス・ネットワーク社」が新しい海外事業運営統括本部として機能しはじめていることから、収益面でもシナジーが出ており、時価総額は9000億円まで上昇しています(6月26日時点)。

 テンプも創業系なので、創業系以外で効果的なM&Aを行ったと言えるのは、電通の事例ぐらいではないでしょうか。電通に関しては、イージス買収後のPMMが上手くいき、シナジーを出せたケースと言えるでしょう。

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日本の事業会社のM&Aは、「1勝9敗」?

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この記事の著者

ベイカレント・コンサルティング 萩平 和巳(ハギヒラ カズミ)

株式会社ベイカレント・コンサルティング 代表取締役社長。 京都大学にて情報工学を修了。 三菱商事(IT部門、戦略IT事業会社立上げ)、 マッキンゼー&カンパニーBTO日本共同代表を経て、 2011年にベイカレント・コンサルティングに入社。 2012年3月より現職。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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