「失敗に学ぶ」IT部門の変革への取り組み--キヤノンマーケティングジャパン 徳原氏
キヤノンマーケティングジャパン(以下、キヤノンMJ)では、ビジネスにおけるITの重要性が増す時代の変化に対応するため、IT投資を継続してきた。その一方、リーマンショック、東日本大震災、タイの洪水などがあり、売上高が落ちたところに開発投資のピークが来る事態になってしまった。
単にコストが増加しただけではない。たとえば2003年にERPを導入してシステムを刷新する際、開発を子会社に渡した結果、「本社IT部門の技術力、開発力が極端に落ちた」(徳原氏)と語る。また現場とIT部門間の言葉の齟齬などにより、甘い上流・要件定義による問題が頻発した。さらに中途半端なリリース、手戻りなどによる大規模プロジェクトの連敗がコストの肥大化を生んでいたという。
売上が落ち、従業員は増えていないのにもかかわらず、IT費用の総額は2003年比で約1.8倍。「私たちIT部門が言う“失われた10年”により、経営層の信頼を無くしていった」(徳原氏)。
キヤノンMJでは2009年、グループのIT戦略を策定し、グループ全体のITによる構造改革を推進する「IT戦略専門委員会」を発足。委員会は経営層に直結で、社長以下、経営層の全員が入った組織となった。推進事務局も、IT部門ではなく総合企画本部に情報戦略企画室を新規に作り、中心になってITを改革する活動を開始した。
2009年からのフェーズ1では、キヤノンMJグループの長期経営構想・中期経営計画とリンクしたIT戦略が策定され、2010年からのフェーズ2では戦略の深掘りとBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)が実施されている。
「業務の抜本的な改革を通じたコスト削減を行い、ITソリューションの領域で3000億円の売上を作ることを意味するITS3000を実現する。そのために筋肉質なITにする議論をした」(徳原氏)
IT投資審議の見直しも行われ、5年間の投資額が1億円以上の案件は、社長以下経営層も出席する会議で審議し、決済すると決められた。それまでは、ITの重要な案件は経営会議に上げられて5~10分程度で説明し、社長以下が正否を判断していた。
現在では、短いものでも15~20分質疑応答をし、長いものになると1時間程度議論し、本当にその投資に価値があるのか、実現方式はどうなのかなどの議論に経営層が入ってくるようになった。
その結果、IT特有のコスト構造について、経営層が深い見識を持つようになっている。「ITに対する見識、知見が経営層に非常に深まって、会話がしやすくなった。ここは非常にポイントだと思う」(徳原氏)。
さらに事業IT部門を新設した。それまで事業部門のITに関しては現場任せで、IT本部はコントロールをしていなかった。それを事業部ごとにIT部門を新設し、IT本部から人を送り込んで、ローテーションするようにした。これにより、事業部がやろうとしているITが適切なものなのか、可視化できるようになった。
徳原氏がIT投資審議と並んでポイントとするのが、BPR推進部門の新設だ。それまでは現場が欲しいといったもののシステム化をし続け、その結果、費用が膨大に膨らんだ。そこでシステム化する前にBPRの部隊が行き、対象の仕事の中身を分析し、必要に応じてやり方を変えることを始めた。ここでの注目点は、現場の業務を担当している優秀な人間を一度ITに異動させ、現場とITを理解し、現場に提案できる人材を育成したことだ。
そのほかでは、IT調達課を新設し、ものを買うことに関して権限を集約した。さらにIT部門が関与したシステム開発については、原価管理システムを導入し、どの仕組みにいくら使ったのかをシステム単位で分かるようにしている。