IBMのデータサイエンティスト集団
-- 所属されているビジネス・アナリティクス&オプティマイゼーション(BAO)のミッションについてお聞かせ下さい。
小野 グローバル・ビジネス・サービスというコンサルティングを行っている組織の中にある、データ分析に特化した部隊になります。立ち上がったのは2009年で、グローバルのIBMでも、かなり力を入れている部門です。その中で私はどちらかといえば上流で、企業のビジネスパフォーマンス向上につなげるためにデータの用途を見極め、そのためにはデータをどのように分析していけば目的を達成できるかなどを考えています。
実際に担当しているのはマーケティング領域が多く、その中には大きく二種類あります。一つはソーシャルメディア分析など、社外にある非構造化データを利用して商品、サービスの評判を調べ、次の改善などにつなげるというものです。さらにその手法を社内データにも適用し、営業日報やコールセンターにかかってくる電話を音声認識してテキスト化したものをマイニングし、顧客の声を分析しています。
もう一つは、企業が持つ様々なチャネルから集まる情報を分析し、顧客生涯価値を最大化するというものです。たとえば、コールセンターに不満の電話をかけてきた人が実際の対面の場に現れた場合、どのようなオファーを出せば好感度が増すのかなどを導き出します。
そこで今回のデータサイエンティストサミットでの私のセッションではこの二つ、ソーシャルメディア分析と顧客生涯価値最大化をテーマとしてお話ししようと思っています。
膨大なテキストから“キラリと光るモノ”を取り出すために
-- ソーシャルメディア分析は、具体的にどのように行われているのでしょうか。
小野 よく分析対象としているのはTwitterで、ブログもやります。Facebookに関しては「データを取れない」という問題があり、中々難しいのですが、企業の持っているファンページの分析などは行っています。
実際の作業では、分析の設計がもっとも重要になります。最初に「何に使いたいのか」を決め、その上で「ではその論点を解くためには何の分析をするべきか」を明確にしなければなりません。
最初のお声掛かりに時にお客様は「こういうことで困っている」と仰います。ところが、そのときに問題だと思っていることを解いても、本当に解決したいのはそれではなかったということが結構あります。たとえばある商品の評判を調べる場合、本当に知りたいことが分からないまま走り出すのは危険です。
そこで我々はお客様のお話をよくお聞きし、コンサルタントとして問題を解きほぐし、知見やデータから仮説を立てます。それを元にさらにデータを分析し、ファクトに基づいてきちんと答えを出すようにしているのです。
ツールは自然言語から必要な情報を収集、分類し、分析までを一貫して行うことのできるIBM Content Analyticsを使っています。この製品ではキーワードレベルの抽出ではなく、日本語の係り受け、「○○が良い」というときにその○○を取り出すなど、高度な分析をしながらマイニングすることが可能です。
私はテキスト分析には二つの良いことがあると考えています。一つは定量化することによりトレンドが分かる。もう一つは、膨大なテキストの中から“キラリと光る”面白い事象を発見できるということです。ソーシャルとは離れますが、営業日報をマイニングしていくと、優秀な営業マンの行動における“キラリ”を抽出し、横展開した事例があります。
ソーシャルで、もう一つだけ付け加えたいのが、リアルタイム性が大きいということです。たとえばテレビドラマの評判を分析する場合、視聴率は1分単位で上下します。一方、Twitterだと秒単位で記録されている。上がった瞬間に何が言われたのかとか、どのような場面があったのかを分析することで、視聴率の上下と場面との関係がわかるのです。
それは一般の商品、サービスについても同様です。キャンペーンを2週間ぐらいやるとして、今までは終えてから振り返り、「一ヶ月後のキャンペーンにどう生かすか」という話でした。今では開始後3日にはどこが上手くいっていて、どこが駄目なのかが分かります。実施中にメッセージを変える、営業チャネルの配分を変えるなどができる。たとえば本来20代女性を対象にしていたのだが、ターゲットを変更するなど。「やりながら改善する」という、新しい概念だと思います。
私たちは、その改善機会は五つぐらいあると思っています。
顧客生涯価値最大化をもたらす打ち手を導き出すために
-- マーケッターの方々には中々興味深い話ですね。では顧客生涯価値最大化については、どのように取り組んでいるのでしょうか。
小野 様々なチャネルから来るビッグデータを分析すれば、顧客の行動傾向が分かってきます。行動が似ている人がいれば、違う人もいる。状態遷移のようなものを考えるのですが、最初は興味が無かった段階からロイヤルカスタマーにし、さらに伝道師まで育てていく。その遷移の可能性を、集めた顧客のデータなどから計算し、「この手を打てば、良い方向に行きやすい」というモデルを作ります。そこから実際に手を打っていく。
たとえば営業担当者が訪問先との接触回数を重ね、自社製品への好感度が高まっていると感じているとします。スーパー営業マンであれば、そのスイッチをそれまでの経緯や相手の人柄などを勘案して、頭の中で一瞬にして把握できるかもしれません。しかしそれは、多くの営業担当者には簡単ではない。そこで様々なチャネルから集めた顧客に関する情報から、スーパー営業マンに代わって考え、次の打ち手を考えます。
コンセプトはネクスト・ベスト・アクション、次の最善の一手です。普通は顧客をセグメンテーションし、1年程度はそのままです。私たちの顧客生涯価値最大化はリアルタイムです。先週の状態を分析し、今週の手を打つ。10分前のアクションを見て別のセグメントに移ったと判断し、対応する。顧客は静的ではなく、動的な存在という前提で、次の手を打つのです。
-- そうした顧客生涯価値最大化のご提案は、経営層とマーケター、どちら向けが多いのでしょうか。
小野 どちらもあり得ます。まずマーケティング部門の方、販売部門の方に興味を持っていただけると思いますが、チャネルまたぎになるとやはり、最終的なゴーを出すときは、マネジメント層の方と話すこともあります。
分析基盤、PureData System for AnalyticsとSPSSのセッションにも注目を
-- 自然言語解析ツールのご紹介がありましたが、ビッグデータ分析、データ・サイエンティストを支えるテクノロジーということでは、どのような環境が用意されているのでしょうか。
小野 シンプルな話にすると、分析というのは新しいことではなく、従来からやり続けられてきた企業がたくさんあります。ビッグデータにより何が違うのかといえば、データの量、質、タイプが爆発的に多くなっているということです。その分析のためにはやはり、効率、スピードが要求されます。今回のデータサイエンティストでは、後半はもう一人の講師がPureData System for Analytics +SPSSについて話をする予定です。
PureData System for Analytics は本格的なアナリティクスに対応するために開発されたシンプルなデータ・アプライアンスで、分析のスピードを提供します。一方、分析や解析のロジックを提供するのがSPSSです。
分析のスピードには二つの意味があります。まず分析処理のスピードがある。同時に分析では所有するデータからモデルを作りますが、それは永続的なものではありません。モデルそのものを作るのも結構大変なのですが、常に細かい調整が必要になります。そこでも精度に加えてスピードが求められるのです。その要求にIBMがどう応えるのか、デモを交えてご提案します。
-- 当日のセッションが楽しみです。ありがとうございました。