イノベーションは失敗から生まれる。失敗を許容する文化を
今年で3回目となる金融イノベーションに特化したイベント「FIBC2014」。同イベントは、金融ベンチャー企業や金融機関、ベンチャーキャピタルなどが集まり、金融サービスを手がける企業によるデモピッチや有識者による講演が行われた。
規制業種と言われている金融業界において、欧米ではベンチャーがベンチャーキャピタルの支援をもとに生活者視点の新しいサービスを立ち上げ、金融市場に影響を与え始めているという。さらに、大手金融機関がこの動きに対応し、ベンチャー企業との提携を通じて自社サービスに取り込んでいく「金融イノベーションのエコシステム」が生まれ始めている。こうした状況の中、日本でもベンチャーによるイノベーションの促進や、金融機関が既存の枠組みを越えて新たなサービスを立ち上げる文化を醸成しようとするのがFIBCの狙いだ。
基調講演:世界標準の思考で金融ビジネスにイノベーションを/齋藤ウィリアム浩幸氏
キーノートスピーチでは、インテカー代表取締役社長の齋藤ウィリアム浩幸氏による基調講演が行われた。
齋藤氏は、日本の課題はR&Dにあるという。「R(リサーチ)は強いが、D(開発)が弱い。つまり、研究されたものを活かす組織体やビジネス的な発想といった、イノベーションを起こすための環境が不足している」と語る。
電話交換機から電話線などのさまざまな開発を行ったベル研究所に始まり、ベル研究所から独立したウィリアム・ショックレー氏によってトランジスタが発明され、ショックレー氏による電子工学関連の技術革新によってカリフォルニアの「シリコンバレー」文化が生み出された。そこからFAIRCHILDなどの半導体が開発され、IntelやAMDといったベンチャーが生み出されるといった、アメリカにおけるイノベーションのエコシステムをどのようにして日本から生み出すかを考えなければいけないと齋藤氏は語る。
「イノベーションを創発するためには、テクノロジーとリベラル・アーツが必要。理数的思考だけではなく、デザインの発想ももたなければいけない。そのためには、個人の力ではなく、ダイバーシティを構築して、デザインしていかなければいけない」
多様な視点からイノベーションを生み出すためには、女性や若い世代の起用が必要だと語る。かつてのマンハッタンプロジェクトやアポロプロジェクトの中心人物の多くは平均年齢27歳と若く、20代後半から30代前半こそが最もクリエイティブな世代だという。こうした人材を組織においてどのように活かすかを、経営者は考えなければいけない。
イノベーションをどのように社会全体で生み出していくか。そのためには、「アントレプレナー=起業家」という定義ではなく、アイディアを実行し変革を推進する人こそがアントレプレナーだと齋藤氏は語り、「アイディアを実現できるすべての人がアントレプレナーだ」と主張する。「アントレプレナーに必要なものはリスクテイク」と語る齋藤氏は、リスク管理をどのように行うかが重要だという。
「人は誰しも間違いを犯す。機械もいつか壊れる。社会は常にパーフェクトではない。アクシデントを前提と捉えて行動すること。重要なのは、Resilience(復元力)だ。これを補足するのがチームだ」
日本のチームがなぜ機能しないのか。それは衝突を極端に嫌う傾向や貧しいコミュニケーション、互いに信用せず失敗を責め立てる風潮や弱みをさらけ出せない文化がイノベーションを阻害しているという。そうした文化を払拭し、イノベーションとは失敗の中から生まれてくるものだということを理解することが重要だと語る。
「失敗は悪いことではなく、経験だと捉えなければいけない。成功の反対は失敗ではなく、Not Doing,Anythg。つまり何もしないことだ。失敗は成功のもとだと考え、PDCAの中でもまずはActionすることが大切であり、それを許容する社会となることがイノベーションが生まれる環境だ」