公益社団法人日本インダストリアルデザイナー協会(JIDA)が企画する「IDイノベーション・連続セミナー」の第二回目が、7月22日に開催された。2回目のセッションは「イノベーションをつくる」と題し、リ・パブリック共同代表で、東京大学i.school共同創設者エグゼクティブ・フェローの田村大氏が登壇。成熟企業の中で繰り返しイノベーションを起こすシリアル・イノベーターや、イノベーションにまつわるさまざまな課題や取り組み方についての講演、ダイアローグが展開された。その内容をレポートする。第1回目のレポートはこちら。
イノベーションとは、新しい人の行動や習慣を作り出すこと
セッション冒頭、安西氏は1950年から現在までのイノベーションの歴史について概説。1990年代まではイノベーションはテクノロジーの進化であったが、90年代以降はテクノロジーから価値観へのシフトだと指摘する。技術革新以外の面において、どのようなものがイノベーションと呼べるのだろうか。
登壇した田村氏は、日本により多くのイノベーターを輩出するための教育プログラムや環境づくり、リサーチプロジェクトなどを行っている人物だ。まず始めに、「イノベーションとは何か」という問いから始まった。

2005年に、米国のデザインファームIDEOがBank of Americaと協働してローンチした「Keep the Change Saving Program」がある。同プログラムは、デビットカードを利用した際に、お釣りのセント部分を予め指定した貯蓄預金に回すという仕組みで、これによってユーザーの貯蓄額を増やすことができるようになっている。
“プログラム開発のため、IDEOはクレジットカードを作れない人たちに対するエスノグラフィー調査を行った。調査の結果、貯蓄ができない人は、お金を使う回数が多い、という事実が分かった。そこで、お金を使うときに自動的に貯める仕組みを作ることで貯蓄を増やし、貯蓄という習慣を作り出そうとした”
(田村氏)
この事例を踏まえながら、田村氏はイノベーションとは「人の行動、習慣、価値観に後戻りをしない変化をもたらすアイデアの普及」と定義した。アイデアから新しい行動や習慣、価値観を揺り動かすのではなく、新しい行動や習慣、価値観を考え、そこからアイデアに落としこむ。これによって、イノベーションの「打率」が上がるのだという。
“アイデアが人の行動や習慣を変えるかはわからない。先に新しい行動や習慣を想定できれば、共通のビジョンや未来が作りだすことができ、それにフィットしたアイデアを考えることができる”
(田村氏)
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江口 晋太朗(エグチ シンタロウ)
TOKYObeta。編集者。これからの未来のための情報設計や環境デザインを実践する編集者。スタートアップやテクノロジー、デザインやカルチャーの分野のコンセプトワークやメディアづくり、企画設計などで企業の事業支援を行う。Twitter@eshintaro
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