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週刊DBオンライン 谷川耕一

君はデジタルという名のドラゴンを飼い慣らすことができるか


 今週は、世界中のCIOが最新のITの世界をどう捉えており、この先ITの世界はいったいどうなっていくのかという話題を取り上げたい。この話の元ネタは、先日ガートナーが発表した世界77カ国2,339人のCIOに対して行ったアジェンダ調査の集計結果だ。調査に協力したCIOたちが扱うIT予算の合計は、日本円で30兆円くらいになる。

穏やかだが着実に成長へのシフトが始まっている

 2013年から2014年の世界のIT部門予算動向を見ると、全体ではプラス0.2%となっている。もっとも成長しているのが経済成長の面でも順調な中南米地域でプラス7.3%。北米も好調でプラス1.8%だ。大きく拡大していそうなアジア・太平洋地域はプラス0.9%に止まっている。予算額の伸びは大きくないが、全体の傾向としては増減なしが38%、増加が45%、減少が17%なので、個々の企業では増やしているところが多そうだ。

 日本はどうかと言うと増減率はマイナス1.5%で、まだまだ景気回復の恩恵は受けていない状況。内訳は横ばいが45%で増加が35%、減少が19%なので、全体的にはまだ足踏み状態と言ったところか。世界も日本もだがIT予算のうちIT部門が管轄しないものが30%程度ある。このように管轄外の予算が、それなりの規模で存在するのはいったいどういうことなのか。

 1つにはIT部門が既存システムの対応に追われ新しいことに対応できないというのがあるだろう。あるいはIT部門が縮小化され人員不足で対応が追いつかないかもしれない。そういった理由から仕方がなくIT部門外での投資が増えているとなるとこれはちょっと問題だ。そうではなく、マーケティング部門などが率先して新しいデジタルツールを利用したいと部門の予算内で投資しているならば、企業としては前向きの投資となるだろう。

 ところで、IT予算については相変わらず現状を維持するためにその多くが使われている。その傾向はあまり変わっていない。しかしながら、少しずつだが現状を安定させるだけでなく、俊敏性の獲得や成長とイノベーションに投資したいという考え方は浸透しているようだ。

 「少なくとも経営層には、そういったムードが出てきているという結果が、今回の調査から読み取れる」―こう語るのは、ガートナー ジャパン エグゼクティブ プログラム グループ バイスプレジデントの長谷島 眞時氏だ。

デジタルという名のドラゴンは敵か味方か

長谷島氏
ガートナージャパン
エグゼクティブ プログラム グループ
バイスプレジデント 長谷島氏

 企業の成長やイノベーションにつながるのが、デジタル化の波への対応だ。このデジタル化の波に乗れるかどうかで、企業の成長やイノベーションを実現できるかが変わってくる。このデジタル化の課題を、ガートナーの発表では「デジタルという名のドラゴン」と呼んでおり、それを飼い慣らせるのかあるいは敵対してしまうのかで「企業は岐路に立つことになる」とは長谷島氏は言う。ドラゴンを強大な敵と見なしてしてしまうと、その企業は時代に取り残されていくことになるのだろう。逆に飼い慣らせれば、こんなに心強いものはない。

 このデジタル化というのは、現時点ではいわゆるソーシャルネットワークを活用するとか、ビッグデータを活用するとか、あるいはInternet of Thingsの世界でどう立ち回るのかといった、最近よく話題にされる領域のことだと私は理解した。これをガートナーではエンタープライズITの「第三の時代」が到来していると表現している。

 そして、いまはまさに第二の時代から第三の時代への過渡期にあるのだと。ちなみに、第二の時代は、ITの工業化時代のこと。プロセスを効率化することに注力しサービスとソリューション、効率性と有効性をアウトプットして求める。対して第三の時代はデジタル化の時代であり、プロセスではなくビジネスモデルに注力する。顧客とのつながりを大切にし、デジタルビジネス・イノベーションと呼ぶような新しいタイプの価値を成果として求める。

 この第二から第三の時代には、単純に移行するものではない。つまり、第三の時代になっても第二の時代に構築したITシステム、つまりはERPのアプリケーションのようなものがなくなるわけではない。それも引き続き運用しながら、第三の時代のデジタル化に対応していかなければならないのだ。そのためには、従来型のウォーターフォール式の開発だけでなく、アジャイル開発といった「今時の開発手法」も同時に身につけなければならない。

 この第三の時代におけるデジタル化のところは、第二の時代のITシステムのようにとことん検証し大丈夫だと確信してから使うというのとはちょっと違う。ある程度のリスクは承知の上、スピードを重視する。時には失敗することもあり、その場合には素直にそれをあきらめるといった判断も必要だ。既存のものと、このいままでとは全く異なるものという「2つの流儀」を習得する必要があるというのがガートナーの見解だ。これは、既存のIT部門にはかなり難しい課題かもしれない。

次のページ
デジタル化の波に対応するのはCIOではなくチーフ・デジタル・オフィサー

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この記事の著者

谷川 耕一(タニカワ コウイチ)

EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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