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企業による「ストレスチェック義務化」はうつ病予備軍を救うか?


 精神障害の労災認定件数が3年連続で過去最高を更新するなどの状況もあり、メンタルヘルス対策の充実、強化を目的とした項目を含む「労働安全衛生法」の一部を改正した法律案が2014年3月に閣議決定された。今後はこれが国会に提出され成立を目指すことになる。この法律改正の動きを受け、従業員50人以上の事業所では従業員のストレスチェックが年1回義務化されるとの報道もあった。

従業員50人以上の事業所は年に1回のストレスチェックが義務化される

山田洋太氏
山田洋太氏

 「法案になるのかガイドラインになるのかはまだ分かりませんが、2014年の夏くらいまでには何らか形になるというのが産業医の間での予測です」

 そう語るのは、ITを活用して産業医の業務をサポートし、企業と産業医の情報をスムースに共有するというクラウドサービスを展開しているiCAREの共同最高経営責任者・代表取締役であり現役の産業医でもある山田洋太氏だ。

 山田氏によれば、法案化されれば報道のように年に1回のストレスチェックが義務化されるだろうと言う。とはいえ山田氏も参加する産業衛生学会では、法案で示されているような内容で義務化されてもあまり意味はないのではとの意見も多いとか。

 というのも、今回の改正で示されているストレスチェックテストがかなり簡易的なものだからだ。現状では以下の9項目の設問に、ほとんどなかった(スコア1)、ときどきあった(スコア2)、しばしばあった(スコア3)、ほとんどいつもだ(スコア4)という4段階でセルフチェックし、各項目の合計点等により評価を行うものとなっている。

 1. ひどく疲れた
 2. へとへとだ
 3. だるい
 4. 気がはりつめている
 5. 不安だ
 6. 落ち着かない
 7. ゆううつだ
 8. 何をするのも面倒だ
 9. 気分が晴れない

 素人が見ても、たったこれだけの設問では、ストレス状況を正確に把握することはできないと感じるだろう。実際に産業医がメンタルヘルスのチェックをする場合、51項目の設問による詳しいテストを行うそうだ。もちろん、そのテストだけで判断されるわけでもない。メンタルヘルスの判断には、本人の「自己申告」だけではなく、医師の「客観的な意見」を反映させることが重要だと山田氏は指摘する。

 また、テストを実施するのが年に1回だけというのも問題だ。仕事なりが忙しい時期に行えば、どうしてもその状況に引っ張られるだろう。スコアが基準値を超えれば、鬱の疑いがあると「自己判断」することにもなる。そうなると実際にはそれほど問題がなくても「擬似的に問題がある人」が増えることに。それに対応する産業医や企業は、かなり非効率な作業を強いられることにもなりかねない。

飯盛 崇氏
飯盛 崇氏

 とはいえ、企業に対し義務化するとなればあまり手間とコストはかけられない。落としどころがこの簡易版であり、年1回の実施なのだろう。

 一方で、「法案となり義務化されても実際の企業での運用には難しいものがある」と語るのは、iCAREの共同最高経営責任者・代表取締役の飯盛 崇氏だ。

 今回の法案改正のターゲットは、明らかに中小企業だ。なぜならば、大企業の9割くらいは従業員のストレスチェック的なことはすでに実施しているから。それが従業員100人未満の企業となると、実施割合は5割以下へと一気に下がってしまう。

 「51項目もあっては中小企業ではなかなか実施できません。さらにメンタルヘルスチェックだと抵抗感もあるので、ストレスチェックとなっているのでしょう。実際には、鬱病になってしまった人をこのチェックで確実に見つけるのではなく、その前段階で何らかのケアをすることが目的。つまり、ターゲットは、いままであまりこの領域に手をつけてこなかった中小企業なのです」(山田氏)

 すでに大企業でメンタルヘルス、ストレスチェックを実施しているところでは、比較的テストを受けている従業員側もきちんと回答しているようだ。

 「実際に何か問題が発生した際に、こういったテストに嘘の回答をしていると最終的には自分が不利益を被る。そういった心理が働いているからでしょう。ところがこれが中小企業の場合、メンタルが弱いと思われてしまうと、職場で働きにくくなるという心理が働くことも多い。そうなるとなかなか正直には答えず、本当に問題がある人を救えない可能性も出てきます」(飯盛氏)。

 そんな懸念も考慮してか、義務化されてもストレスチェックの結果は企業側には返さずに産業医と本人だけが受け取る仕組みになる。本人が結果を受け取りそこでさらなる面談を希望すれば、企業側が産業医と共に対応することになる。この流れは個人のストレス、メンタルの情報を扱う上では必要な手順だが、事業主側としてはまったく把握できないものの費用を負担することにもなり、あまりこの件に積極的にはなれない可能性も出てくる。

 ストレスチェック制度の概要
ストレスチェック制度の概要

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この記事の著者

谷川 耕一(タニカワ コウイチ)

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