生活者の情報を収集し、個人の価値観、ニーズに合わせたマーケティングを展開
日本を代表する印刷会社の大日本印刷(DNP)。同社の印刷事業は、出版印刷や商業印刷、ICカードや写真用の材料などを提供する「情報コミュニケーション部門」、食品パッケージやペットボトル用無菌充填システム、木目等を印刷した各種建築材料などを提供する「生活・産業部門」、半導体製造用のフォトマスク、液晶ディスプレイ用のカラーフィルターや光学フィルムなどを提供する「エレクトロニクス部門」の3つに分かれている。
また、生活者の視点とソーシャルな視点に立った新しいサービス開発にも注力。紙と電子の両方の書籍を取り扱うハイブリッド型総合書店「honto」や、インターネットでの商品購入やアンケート回答等でポイントが貯まる「エルネ」などの「生活者向けサービス」を展開しており、企業だけでなく生活者や社会の課題を解決する製品、サービスの開発にも注力している。
また、DNPは「未来のあたりまえをつくる。」ため、研究開発にも力を入れており、それぞれの部門において5年から10年先の市場を見据えた製品、サービスの開発に取り組んでいる。
「我々が所属するABセンター第2本部生活者情報ビジネス開発ユニットでは、デジタルマーケティング技術を用い、生活者情報の活用によって新しい価値を提供するサービス開発を行っています」と、同ユニット マーケティングビジネス開発室 室長の島崎 勤氏は説明する。
DNPはこれまで、さまざまなマーケティング情報を収集し、それをBtoB領域で活用してきたが、あまり生活者個人の状況は見ていなかった。そこでデジタルマーケティングの手法を用いて収集した生活者のビッグデータを分析することで生活者を知り、生活者が求めている最適な製品やサービスを顧客企業に提案していると島崎氏は説明する。
そのような取り組みの1つが「価値観マーケティング」だ。「生活者は一人ひとりが違った価値観を持っており、その人たちの好みや感性も捉えた上で、それぞれのニーズに合ったサービスを提供することで、より高い付加価値を伴ったサービスを提供できる」と島崎氏。価値観マーケティングでは、集めた生活者のデータをベースに顧客の価値観を判別し、価値観を軸に顧客をセグメント化して、価値観に応じた製品やサービスの提案を可能にしている。
このDNPの価値観マーケティングで活用されるのが「価値観データベース」である。「インターネットを利用したポイントサービス『エルネ』を用いて、大勢の会員モニターに調査した結果をビッグデータとして蓄積しており、これは日本人全体を捉えられる、いわば縮図のようなデータベースとなっています」(島崎氏)。
この価値観データベースのデータを分析し、ライフスタイル、感度、メディア、コミュニケーションに関する10の因子でクラスター分析を行い、5つのクラスターに生活者を分類した。さらにそれぞれのクラスターをいくつかの層に分け、合計21の応用セグメントに分類するロジックを導き出した。このロジックを使うことで、誰でも10設問34項目の価値観アンケートを行えば、対象となる生活者を21セグメントに分類でき、このセグメントから顧客プロファイルを理解することや対象となる業種、業態のスタイルにあわせた顧客の価値観を明らかにできるというのだ。
「たとえば、価格を重視する価値観を持っている人に機能を前面に出したダイレクトメールは響きません。価値観に応じてダイレクトメールのデザインを行うと、実際に効果が違ってきます」(島崎氏)。
そして、各価値観に分類される個人が、実際にどんな商品を購入しているかといった購買情報と紐付けて分析を行うことで、その商品が持つ「商品DNA」を定義することができると島崎氏は言う。これが商品の特徴を恣意的に捉えるものではなく、データから商品特性を導き出すDNPの価値観マーケティングの特長だ。「価値観がさまざまな商品やサービスを展開する際のハブになると思っています。個人の価値観と購買などの個人の行動をデータで結び付けることで、新たな商品価値が見えてきます」(島崎氏)。
またDNPは、これらの価値観データベースのデータと、さまざまな情報を連携する取り組みもすでに始めている。食品の購買から調理、消費に至る食卓のマーケティング情報の「食MAP」、生鮮三品や惣菜を含めた食品流通業界の「商品標準化コード」である「i-code」、さらにはTwitter上の投稿データなどを価値観データベースと連携させることで、価値観のクラスターを分類する分析精度を向上させ、より顧客企業のマーケティング活動に貢献できるデータベースとしての整備を進めている。
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