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パーソナルデータ活用の難点

あの企業は私よりも私のことを知っている――プロファイリングされた個人データの何が問題なのか?

 「私」に関する情報を集積し、それを分析して、「私」がいかなる人物であるのかを解明することを、プロファイリングと呼びます。プロファイリングがこんなに盛んになり、その価値が意識されたのは、たかだかここ10年くらいのことに過ぎません。そうしたことに40代の半ばまでなじみのなかった筆者には、アマゾンやグーグルなどの海外の企業が私よりも私のことを知っており、集積されたデータが海の向こうで保存されているというのは、この上なく気持ち悪いと感じます。では、プロファイリングされた個人データのいったい何が問題となっているのでしょうか。データ・プロファイリングの法的な問題点はどこあるのでしょうか。

「私」は、データの集積にすぎない

 「私以外私じゃないの」。別のことで有名になってしまったフレーズですが、その「私」とは、いったい何なのでしょう。これ、哲学でもSFでもよく議論される話題です。

 たとえば、私の脳内にある情報、記憶から性格から何から何まで、一切合切をすべて小さなチップに埋め込むことができたとします。それを別の人の脳とか人造人間(古い言い方ですね)とかに移植できたとして、それはいったい「私」でしょうか。移植先がムキムキのボディビルダーだったり絶世の美女だったりすれば、肉体はいまの私とはまったく違うわけですが、いったいそれは私なのでしょうか。  

 自分のことは自分が一番よく知っている。われわれはそう思っています。でも、見ようによっては、「私」というのはしょせんデータの集積に過ぎません。その総体を自分が最もよく知っているというのは、もしかすると、科学技術の水準が低かったために成り立っていた、錯覚なのかもしれません。

 自分の身体の健康状態については、人間ドックなどで取ったデータを専門家である医者に説明してもらわなければ分からないわけです。将来は、生活全般について、似たような状況になるかもしれません。  

 たとえば、この文章を書いている間にアマゾンからメールが届いて、ジェイン・ジェイコブズ『市場の倫理 統治の倫理』 (ちくま学芸文庫、2016年)というのを勧めてきました。

 その本のことはもちろん、著者のこともまるで知らなかったのですが、なかなか面白そうな本なので、注文してしまいました。私が読みたくなるような本が何なのか、アマゾンは過去の注文履歴から把握していて、私が見つけて読みたくなる前に、好みの本が出たことを教えてくれたわけです。少なくともこの件に関しては、読みたい本について私自身よりアマゾンの方が私のことをよく知っていたということになります。  

 「私」のことをもっとよく知ってそうなのが、グーグルです。メール、カレンダー、マップ等々、以前の生活が想像もつかなくなるほどに便利です。さらにグーグル・ナウというサービスを使えば、それらを統合することができます。 福島に出かける予定がカレンダーに入っていれば「今晩は雪の予報なのでスノーブーツで出かけた方がいいです」などと教えてくれたりする。どんどんカスタマイズされる。

 「今晩何を食べようか」と相談すると、いまいる場所の近所の、評価レーティングの高い店の中から、店を選んでくれる。それも、自分の好み、たとえば「ヱビスビールの生が好き」とか「お肉は赤身がいい」とか、自分の好みを憶えてくれています。そのうち、「マット・デイモン主演のこんどの新作、ゼッタイ見た方がいいですよ」とか「インディーズ系のこのバンド、ロックな感じでいいですよ」とか、こちらが何も聞かなくても勧めてくれるようになる。「ご帰宅のあとビールをお飲みになりたいのでしょうが、冷蔵庫にはあと1缶しか残っていませんよ」とスマートフォンが教えてくれる未来は、もう目の前です。  

 そういうことがどうしてできるかというと、われわれのログイン中の動きを逐一トラックしているからです。検索履歴やメールの宛先はもちろん、ウェブの閲覧履歴も、グーグルは、ログインIDと紐づけて記録し、分析しています。スマートフォンのGPS履歴を取れれば、いつどこに行ったかも把握できます。YouTubeの観賞履歴もわかるし、メールの中身も読める。私が「ゼロ・グラヴィティ」や「インターステラー」を他人に勧め、しかも「ボーン・アイデンティティ」のシリーズを気に入っており、かつA.C.クラークの『2001年 宇宙の旅』をアマゾンで注文したのなら、「オデッセイ」を勧めてもまず間違いはない。そうなります。  

 このように、「私」に関する情報を集積し、それを分析して、「私」がいかなる人物であるのかを解明することを、プロファイリングと呼びます。

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プロファイリングされた個人データは大きな価値を生む

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この記事の著者

玉井 克哉(タマイ カツヤ)

東京大学先端科学技術研究センター教授(知的財産法)
1983年東京大学法学部卒業、1997年より現職。2013年弁護士登録。現在の主な研究領域は、特許、営業秘密、著作権、ブランド、プライバシー。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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https://enterprisezine.jp/article/detail/7769 2016/03/09 06:00

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