
「私以外は私じゃない」はずなのに、その「私」のことを誰かが私自身よりよく知っている。それがデータ・プロファイリングの問題点だということは、前回の記事で紹介しました。では、それがいやな人はどうしたらいいのでしょうか。今回はデータ・プロファイリングとブランドの関係から、そのヒントを探っていきます。
「ブランドの力」とは?
データ・プロファイリングの問題を考える場合、まず頼れるのは「ブランド」です。ブランドとは、「ある特定の事業者が供給する商品やサービスに向けられた顧客の信頼」を指します。
たとえば、筆者はポッキーが好きでよく買います。パッケージに「ポッキー」と書いてあれば、確実に「ふだん食べている、あの商品」が手に入ります。また、旅行に行くと「ご当地ポッキー」という変わり種を売っていたりします。夕張メロン味、信州巨峰味、宇治抹茶味……いろいろあるようです。
ご当地ものは中身をよく知らないわけですが、「ポッキー」と書いてあれば、食品として何よりも大事な安全性や品質への不安がないし、味も「妙なものじゃないだろう」との信頼感があります。これが「ブランド」の力です。
いま、データ・プロファイリングにおいて強力なブランドを築こうとしているのがアップルです。ティム・クックCEOは、昨年9月に公表した顧客への「レター」で、「Appleはこれまで、自らのすべての製品とすべてのサービスにおいて、どの国のどの政府組織に対してもバックドア(情報の裏口)を設ける協力をしたことはありません。Appleのサーバへのアクセスを許容したこともなく、今後も決して許容しません」と述べていました。
アップルのサイトには、「コンテンツに関する要求には必ず捜査令状が必要です」とあり、「iOS 8以降を搭載しているすべてのデバイスでは、アップルが政府の捜査令状に応じてiOSデータの抽出を行うことはありません。なぜなら、ファイルはユーザーのパスコードに紐づいた暗号鍵で保護されており、アップルはそのパスコードを所有していないため、抽出を求められてもできないのです」とあります。米国政府の要請にすら必ずしも協力するとは限らないと言っていたわけです。
昨年9月の時点で、これに関心を持った人は少なかったでしょう。しかし、今年2月、テロ容疑者の所持していたiPhoneのロックを解除するツールを製作するようFBIがアップルに求めたことで、同社の方針がにわかに注目を集めました。
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- この記事の著者
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玉井 克哉(タマイ カツヤ)
東京大学先端科学技術研究センター教授(知的財産法)
1983年東京大学法学部卒業、1997年より現職。2013年弁護士登録。現在の主な研究領域は、特許、営業秘密、著作権、ブランド、プライバシー。※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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