近年、多くの分野で国際標準が定義され、世界中の企業が取り組まなければならない状況にある。しかし、レベル達成や認証取得に終始し、企業の経営目標や製品戦略を十分に達成できていない改善活動が散見される。国際標準の動向に対する警鐘を踏まえながら、改善活動のアプローチについて解説する。
なぜ国際標準の適用が加速するのか
国際標準規格の現状
以前は業界標準や国際標準を使うと言えば、軍事や航空・宇宙など、ごく一部のミッションクリティカルな分野でした。しかし現在では、IT系を含め、さまざまな分野で同様の規格が定義され適用が進んでいます。
これらの国際標準規格は、分野や規格の内容により若干の違いはありますが、次の3点を明確に定義しています。
- プロセス
- 成果物と記述内容
- 品質の基準やレベル判定としての認証/アセスメント/アプレイザル
そして、どの分野でも国際標準が設定されているため、1つの企業でも製品やサービスによって複数の国際標準規格を使う時代となっています。
国際標準規格の目的
国際標準規格がこのように多くなっている背景としては、ビジネスのグローバル化、アウトソーシングやオフショアリングの流れがあります。法律、商習慣、宗教や文化が異なる国や地域におけるビジネスでは、プロジェクト管理の共通する基準やプロトコルが必要になるのです。
また、国際標準によりクリアな取引を実現しようとする動きも高まっています。国際会計では、国際標準の規約に従って、企業の経営状態(キャッシュフローや損益)を株主や取引先に公開しなければなりません。これと同じように、プロセスの定義と品質の基準を明確にして、透明性の高い開発や管理活動を行うことが求められています。特にミッションクリティカル性の高いものでは、定義しているプロセス、テストケースやその成績をすべて提供する場合もあります。それによって製品は初めてユーザーにとって安全なものになるのであって、これまでは何とかやってこれただけだ、というのが国際標準の世界の認識です。
さらに、国際標準規格には、企業の活動を改善・改革したり、認証を受ける際のベストプラクティス情報を提供するという位置づけもあります。
利用者にとっての国際標準規格の意味
国際標準規格には、その利用者の立場から見ると、どのような意味があるのでしょうか。
ビジネスの国際化に加え、ソフトウェア開発が大規模かつ複雑化しているため、明確な手順が必要となっています。そして、これまでの品質基準の基盤に保証はないので、より信頼できるものに変えていくことが世界的な流れとなっています。これらが国際標準規格によって提供されるのです。
また、国際標準規格は、発注先の開発力やプロジェクト管理の能力を評価する基準としても利用できます。たとえば、改善活動のためのCMMIやISO 15504は、発注先を監査するときの材料にもなるのです。
そして、「定量的なデータに基づく活動」という点に非常に大きな意味があります。以前から、ハードウェアでもソフトウェアでも、メトリスクを活用して見積りや意思決定を行うべきだと言われています。国際標準規格には、その方法が科学的かつ具体的に記されており、場合によってはその手法まで規定されていることもあります。ただし、非常に数学的で専門としている人でないと対応できないようなものもあり、国際標準規格のハードルは非常に高くなっています。
プロフェッショナルな管理者や開発者であれば、国際標準に沿ったより厳格で科学的なアプローチをとるべきことが求められる時代となっています。
(HASHIMOTO SOFTWARE CONSULTING INTERNATIONAL Inc.代表)

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渋澤 蔵人(シブサワ クロウド)
大学卒業後、文芸書の編集者を目指すが、時代に流され、コンピュータ書籍に鞍替え。OSや開発環境を中心に、マニュアルや書籍の制作・編集に携わる。現在はフリーランスの編集者・ライターとして活動中。日常生活も含め、常に「教育」を念頭に置いている。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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