スケジュールにロジックを組み込み、日々刻々と変化する状況を把握する「フォアキャスト・スケジュール」の手法。成果物からモジュール、画面、従業員に至るまであらゆる管理対象に付与されたIDでコミュニケーションのぶれを排除する「コントロール・リスト」。そしてプロジェクト成功のための見取り図「WBS」。数々の大規模プロジェクトを手がけてきたエンジニアリング業界の雄、日揮の佐藤知一氏が開陳するプロジェクト管理の極意。
受注産業としてのエンジニアリング業界とIT業界
エンジニアリング業とは何か
エンジニアリング業というのは、工場づくりのプロフェッショナル集団です。プラントメーカーという表現もありますが、私ども自身が工場をもっているわけではなくメーカーではありませんので、この言葉には違和感があります。製造業のお客様から発注をいただくと、様々な種類の専門メーカーからモノを購入し、必要とされる工事業者に依頼して工場を建設する。純粋なプロジェクトマネジメント業なのです。
工場とは、機械、設備、建築物などの様々な要素を有機的に結びつけたひとつのシステムであり、その意味で我々はシステムインテグレーターでもあります。また、客先それぞれに個別の仕様がある個別受注のビジネスでもあります。もともと欧米で発達した業種であり、当社でいえば、今年85%が海外の案件です。日本国内では専業は3社しかありません。

SIとエンジニアリングの類似点
SI系のプロジェクトとエンジニアリングのプロジェクトを比較してみます。顧客の要求がなかなか明確でないと、SI系はよく言いますが、エンジニアリング業界でも、国内の顧客に関しては同じです。何十億という予算規模のプロジェクトが、当初3枚くらいのペーパーから始まるということさえあります。そこからスタートして様々な提案作業が始まる。また、契約もSI系では一括請負契約というのが普通ですが、エンジニアリングでも国内は同じで、その意味ではよく似ています。
ちなみに、海外ではどうかと言うと、仕事は契約書・仕様書・図面の束から始まりますし、一括請負契約もありますが、「コスト・プラス・フィー」といって、かかった金額に対して一定のフィーを乗せて請求するというやり方もあります。
元請けと協力会社という受注体制も、システムインテグレーション業界と同じです。その構築プロセスも、設計してモノをつくって(組み立てがありますけれども)単体テスト、総合テストをするというところは同じだと言えます。
客先の違いでプロジェクトの進め方が変わる
では何が違うかと言えば、つくったものが見えるか見えないかというところです。エンジニアリング業界では、成果物が目に見えますが、ITではそれが見えにくいということは大きな違いです。
また、日本・イタリア・フランスのお客様と英・米のお客様とでは違いがあります。前者はどちらかというと「おまかせ」で、結果重視というところがあります。できあがったものが気に入るか気に入らないかというところが大事になる。こちらは一括請負契約の傾向が強い。
ところが、米英のお客様はプロセス重視で、途中途中で自分たちの要求、注文がきちんと反映されるかどうかということを重視します。この場合、コスト・プラス・フィー契約が必然的に通りやすい環境があります。
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陣内 一徳(ジンナイ カズノリ)
埼玉大学教養学部卒業。編集者・ライター。有限会社アーカイブ代表取締役。
書籍の企画編集・DTP制作からウェブやPR誌等の取材原稿作成まで。とくに技術系のテーマが多いが、それに限らず幅広いジャンルを手がける。最近は、企業・団体の社史などの取材原稿作成で飛び回っている。※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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