アナログ地上波によるテレビ放送が終了する2011年に向け、放送サービスのデジタル化が急速に進んでいる。一方で、インターネットのブロードバンド化も目覚ましい。通信業界と放送業界で既得権益をめぐりせめぎ合っているが、通信と放送の融合は技術的観点からは着実に進んでいる。同時に、視聴者にとって本当に嬉しいサービスとは何なのかが改めて問われているように思う。さまざまな取り組みがあるが、今回はこれまで放送局から送られてきたデータのみでしか楽しめなかったテレビ番組を、インターネット上の視聴者の生の反応と連携させて視聴することにより、格段に見方が広がり面白くなるというユニークな研究を紹介してもらう。 (DB Magazine 2007年2月号より転載)
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放送と通信の融合
テレビ番組を録画するハードディスクレコーダの普及が進んでいますが、最近では1700時間以上も録画できる製品があります。録画可能時間はさらに伸びると考えられますが、人が実際に視聴できる時間には限りがあります。そのため、録画した膨大な番組の中から興味のあるシーンを探したり、限られた時間でハイライトを見たりといった新たな視聴手法に対する要求が高まっています。
そのための研究も進んでいますが、シーンの色やカメラ操作、字幕のテキスト、アナウンサーの声の大きさや、番組中の聴衆の笑い声などを基にインデックス化するため、必然的にテレビ局側から提供される情報に依存せざるを得ず、視聴者の視点に立っているものであるとは言いがたいものでした。
一方、近年「番組実況チャット」への注目が高まっています。番組実況チャットとは、テレビ番組の視聴者がインターネット上のチャットスペースに集まり、テレビ番組を見ながらリアルタイムでほかの視聴者との会話を楽しむというものです。番組実況チャットの代表的なサイトである「2ちゃんねる」では、各テレビ放送局の専用チャットスペースを用意しており、夜中であっても参加者が絶えません。大きなイベント(日本代表のサッカーの試合や人気映画/ドラマの放送など)の放送中には、1分間に1000件以上もの書き込みがあります。
情報通信研究機構知識創成コミュニケーション研究センターの宮森恒研究員を中心とする筆者らのグループは、テレビ番組の内容/進行と1対1で対応しているこの番組実況チャットに注目し、チャットの中から視聴者の「盛り上がり」や「落胆」などの感情情報を抽出することで、テレビ番組にインデックスを付ける技術を研究しています。このインデックスを利用することで、視聴者全体が盛り上がっているシーンや、自分と同じ興味(応援しているプロ野球チームなど)を示す視聴者が楽しんでいるシーンだけを抽出してダイジェストを生成するといった「視聴者反応で見るテレビ」を実現できます。インターネット上でやり取りされる視聴者の生の反応(通信)と融合することにより、テレビ放送の見方が変わってくるのです。
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中村 聡史(ナカムラ サトシ)
京都大学大学院情報学研究科特任助手。2004年大阪大学大学院工学研究科博士課程了。情報通信研究機構専攻研究員を経て2006年より現職。博士(工学)。ユーザーインターフェイス、Webなどの研究に従事。情報処理学会、日本データベース学会等会員。
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