なぜ時空間管理が必要か
GIS(地理情報システム)が扱う現実世界は日々変化しています。新しくビルや道路が作られ、昨今の市町村の合併では全国の市町村の名前も形も変わりました。
しかし、多くのGISや地図情報サービスでは現在分かっている最新の情報のみが表示されます。Web上の各種地図サービスやカーナビでは、まさに現在の地図のみが表示されれば満足できるわけですが、一方で「特定の時間(年月日)の地図を見たい」「ある時の地図と現在の地図を比較したい」といった需要もあります。しかし、現在の多くのGISではこれらを行なえません。
本稿で紹介する時空間GISは、常にデータ更新が行なえ、かつ必要に応じて過去の状況を自由に復元可能なシステムです。図1は東京周辺の1920年と2003年の道路網を示しています。時空間GISには存在時間の異なるデータが蓄積されていて、任意の興味対象時間(TOI:time of interest)を指定することにより、その時間の世界の表示や、その世界の上でさまざまな空間演算を行なえます。
地物の実在時間
時空間GISを実現するためには、各地物に実在時間を付与して管理します。すなわち、各地物に対して、それがいつ現実世界に現われ、いつ消滅したかを表わす2つのタイムプリントTsとTeを付与します。これを「実在時間(valid time)」と呼びます。ここで、Tsは調査すれば知ることができるかもしれませんが、Teは誰にも分からないのが普通です。例えば、今ある道路がいつなくなるかは分かりません。そこで、Teには常に将来に向かって伸びる時間(NOW)を与えておきます。
図2は地物の実在時間を示しています。時空間GISは、指定されたTOIと交わる地物のみを表示したり、それを空間演算の対象とすれば実現できます。家の位置やレストラン、ホテルなど、ほかの地物と関係しない地物の管理ではこれで問題ありません。