難問:りんごはいくつ売れたのか?
本題のMDMに入る前に、まずは「マスターデータ」について整理しておきたいと思います。
たとえば、販売分析を考えてみましょう。「誰が、どこで(誰から)、何を、いつ、いくつ、いくらで買ったか?」を集計し、その傾向を把握するのが販売分析の第一歩です。
一般的には、上記における「誰=顧客」、「どこ=店舗/販路」、「何=製品」がマスターデータに相当し、これらのマスターデータと「いつ」、「いくつ」、「いくら」、「買った」が組み合わさったものがトランザクションデータになります。このマスターデータが、事業、地域、販路、アプリケーションごとに異なり、それぞれの方言にもとづいてトランザクションデータが記述されていると、同じ軸でデータの集計ができません。りんごに例えるとこうなります。
ポイントは、方言ごとに「りんご」、「林檎」、「apple」、「pom」と呼び名が異なるだけでなく、「青りんご」という粒度の違うものが混ざっていたり、「いくつ」の単位も異なっているということです。さらに、アップルジュースやアップルパイなどの加工品まで増えてくるとどうでしょう?「りんごはいくつ売れたのか?」はきっとすぐに答えられない難問になるはずです。
これが実ビジネスの世界でも起きています。「この製品がグローバルのどこでどれだけ、誰にいくらでどう売れているか」を即座に把握することは至難の業になっているのです。いわゆる、横串でデータを見られない状況です。マスターデータがマネジメントされていないと、販売分析だけでなく、企業/グループ全体での集中購買、サプライチェーンにおける在庫の可視化、企業統合に伴う請求一本化やグループ与信管理など、さまざまな企業活動に支障を来たすことになります。
だからといって、世界中の呼び名を「りんご」に強引に統一するのは現実的ではありません。「apple」や「pom」で回っている地域社会=個別アプリケーションがあるからです。そこで、MDMの出番です。各方言はそのまま残しつつ、それらをつないでいくーーーつまり、アプリケーションのレベルで「マスターデータを統一する」のではなく、データのレベルで「マスターデータを統合管理」するのがMDMの役割なのです。